mum&gypsy

芸劇eyes特別編「20年安泰。」参加

帰りの合図、

〔東京〕2011624-27日/水天宮ピット大スタジオ

撮影:田中亜紀

▽ チラシより

じりじりと、もう暑くなってきた、東京、2011年、5月、である。
夏から夏まで、どう泳ぐか考えている最中である。
もう上京して八年目、東京の夏なんていつまでも慣れないよ、なんて思ってたけど、いい加減、慣れてきちゃったよ、それほどに、あの頃から時間、経っちゃったよ。
あの頃、そうそう、東京に向かう始まりの駅、北海道、伊達市、僕、18歳、同い年のヤツらに見送られた、親父も遠くからこっち、見てたっけ。
僕は電車で東京に向かった、どんどんと遠ざかる、北海道、伊達市、青函トンネルを抜けたあたりで、僕は、あの街に、あの家に、あの食卓に、もう帰らない、と、決めた。もう帰れない、と、思えた。思えてよかったんだ。
あそこには僕に、作文教えてくれた人がいる、演劇教えてくれた人もいる。
わけのわからない喧嘩をしたヤツもいるし、知ったこっちゃないけど、最近じゃ子どもとかできたヤツもいるらしい。
いつもふとした拍子に脳裏に浮かんでくる、その人たち、に、
僕はあの日、帰らないと決めて、帰れないと思えて、よかったんだけど、
帰りの合図は鳴った、ようだ。僕はこの合図に戸惑っている。
あの日から所在地わからぬまま、居場所も定まらぬまま、彷徨ってばかりの僕は、帰ること、できるのかな、待ってる街は、家は、食卓は、あるのかな。どうかな。
今年、2011年、夏から夏まで。泳ぎながら、確かめようと思う。
帰るということ、待ってるということ、
それは、どこに?どこで?
そこは、きっと。


2011.5.22 藤田貴大

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▽ パンフレットより(藤田貴大)

「日々の路地でのサヴィヴ、及び、マームとジプシー的、帰るということ、その帰路、偶然にして、雨だった。みたいな。」


苛々することばかりで虫の息でも、やっぱお腹はすく、すくすく、すく。
そのことに驚き、隠せない。すいているぞ、今、すいてるぞ、と、心、躍る。
その時、僕きっと、前のめり、自分に対して、すごーく、のめってる。
お腹はすく、すくすく、どうしようもなく、その日々、が、なんだかなぁ、と、泪する。
晩ごはんに、街が、近づくとき、そこかしこから、お腹の音、するとして、そしたらパラダイスだよね、みんな、帰りたくなる、よね。
漂流するばかりじゃないんだ、ってね、少し思えるのは、いつも、脳みそのおかげじゃなくって、お腹、のおかげでした、みたいなね。
それはわからないこと、わからないことわかろうとすること、それは必然、かもだけど、わからなくていいことだって、きっと。
僕や僕らはいつもお腹すく、すくすく、すく。
それは何があっても変わんなかったね。
よかった、とか、がらにもなく、思いながら、今日も帰るよね。

2011.6.17 藤田貴大

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出演

荻原 綾 尾野島慎太朗 成田亜佑美 召田実子

スタッフ

作・演出/藤田貴大

企画コーディネーター/徳永京子
主催/東京芸術劇場(
公益財団法人東京都歴史文化財団)

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