たゆたう家族の、からまる記憶。少しほどけて、つながるように。

たゆたう、もえる

2010年2月13日-16日こまばアゴラ劇場(冬のサミット2010参加)
撮影|飯田浩一

パンフレットより「たゆたう、もえる」

僕のばあちゃんの百合子さんは俳句教室に通ってて、いつも帰ると俳句を披露してくれる。

僕のじいちゃんは4年前に他界した。僕は20歳だった。

ばあちゃんはじいちゃんが死んじゃって、一人であの家に住むことになった。

頭から離れない記憶は、ずっとリフレインする。そのリフレインに身を沈めて、閉じこもることだってできる。
たぶんこの作品の登場人物たちは、記憶の中にいて。

ばあちゃんはじいちゃんが死んじゃって、じいちゃんとの記憶を俳句にした。

彼女はたまに、ふとした拍子に、じいちゃんとの俳句を詠む。 彼女もまた記憶の中にいるのだろう。

僕は僕で、彼が死んじゃってから、あの家での記憶を振り返ってばかりだ。

振り返ってばかりの、4年間だったけど、そろそろ曲がり角を曲がって、振り向けなくなろう。

逆光の中、僕の後ろで、手を振るあの人は、もう、記憶の中だから。

振り向けなくなって、真っ直ぐ前を向き直した時、どうするか。何が待ってるか。

これは僕は、これからの話、記憶からの脱却、だと思っている。

2/6 藤田貴大

俳句 ー藤田祖母・百合子

位置につき 空に号砲 鰯雲
秋彼岸 あの世この世に 隔てられ
在りし日の 夫に感謝や 藤の花
夫のくせ 取れぬ形見の 冬帽子
天の川 めをと暮しも 終りけり
百合の花 山ほど抱かせ 夫送る
夫逝きて 一人に広し 冬座敷
旅立ちの 棺に淡き 百合の花
亡き夫の 愛でしコスモス 咲きつづ
七七日 終へて見上ぐる 天の川
生きている かぎり夫恋ふ 蓬餅
秋天に 溶けゆく夫の 煙かな
花野行く 夢亡き夫と 二人連れ
在りし日の 夫の声する 百日紅
いる筈の なき夫の声 昼寝覚め
あるものを 供えて一人 今日の月
遺されし スケッチブック 石蕗の花
亡き夫と 出逢へそうなる 花野かな
亡き夫の 冬帽今も 玄関に
夫ゆきて 山茶花今を 盛りとす
瞬くも 夫の星かも 冴え返る
曼珠沙華 夫はこの道 行きしまま
夫逝きて 眠れぬ夜半の 月明かり
ふと夫に 呼ばれたやうな 冬の月
愁思の手 そっと置くなり 夫の墓
今日のこと 話す夫亡く 夜の長し
彼岸花 夫はこの径 ゆきしまま
言い訳を する人のなき 夜長かな
看取りさへ 今は思ひ出 天の川
亡き夫の うすれる過去や 晩夏光
七七日 済ませ安堵の 午睡かな
傍らに 夫いるごとし 十三夜
夫逝きて いよいよ天の 高さかな
夢覚めて たちまち一人 夜の長し
ひき戻す すべなく仰ぐ 鰯雲
亡き夫の 遺品の整理 長き夜
昇天の 夫を憶へば 星流る
昼寝覚め 夫におこされ 夫は亡く
ふと夫の 声せしごとし 青葉風
急がずに 老いゆくつもり 毛糸編む
夫眠る 墓までの道 霜踏んで
根深汁 脳裏に浮かぶ 母若し

あらすじ

田舎にある、家。そこでに集まる家族たち。
家族の一日と、家の過去が入り交じる。
絡まった関係と時間。置き去りにしてきた記憶。
ある家、始まりと終わり。
でも終わらない、終われなくて、ずっと続いていく話。

出演

安藤理樹  伊野香織  尾野島慎太朗
荻原綾  斎藤章子  とみやまあゆみ
成田亜佑美  波佐谷聡  福沢佐瑛子
萬洲通拡  吉岡由佳  緑川史絵
横山真  吉田彩乃

スタッフ

作・演出
藤田貴大
舞台監督
森山香緒梨
照明
吉成陽子
オブジェ製作
青柳いづみ
衣装
NINGENDAYO.
制作
林香菜 梅村祥子 吉田聡子
舞台写真
飯田浩一

クレジット

企画制作
マームとジプシー/(有)アゴラ企画・こまばアゴラ劇場
主催
(有)アゴラ企画・こまばアゴラ劇場
ディレクター
杉村邦生