「ヒダリメノヒダ」Archive②
スズキタカユキ×藤田貴大

2015年5月25日

「ヒダリメノヒダ」神奈川芸術劇場大スタジオ
4月10日、ソワレ公演後に収録
記録|橋本倫史

藤田貴大 出演してみてどうでした?
スズキタカユキ 何だろうね? 不思議な感覚でしたけど。
藤田 スズキさん、一回目は黒いシャツを着てましたよね? 今日は何で白いシャツにしたんですか?
スズキ 出るシーンがなければ、黒のほうがいいかなと思っていて。藤田君の立ち位置もそうだったけど、そんなに中に入らないのであれば黒のほうがいいかなと思ってたんですよね。他のゲストの方の衣装には白を入れてるんですね。中に入るからわざと白を入れてる。僕もちょっと迷うなと思ったんだけど、今日は中に入ることを重視して白にして。
藤田 スズキさんの回はすごい不思議だったんですよね。ずっと衣装をしてくれてるから、役者の皆も他のゲストの方に比べてスズキさんに慣れてるし、スズキさんが衣装を着せてくれることが昔よりも不思議じゃないことになってると思うんです。それは慣れてきたとかってことじゃなくて――いや、衣装を着た姿をスズキさんに見てもらうってことには馴染んできちゃってるけど、それって変な作業でもあるよなと思っていて。これは一回目を観たときの感想でもあるんだけど、“衣装を着る”ってことは不思議な作業だと思うんです。スズキさんはいつも、開演ギリギリまで衣装を着せた役者のことを見ていて、それが開演前の儀式みたいになってるじゃないですか。衣装を着せてその日のその回をやるってことはどれぐらい慎重になることか――スズキさんと作業をしていると、いつもそのことを考えるんです。ちょっと物語に繋げて言うと、喪服を着るとかってことも非日常的なことじゃないですか。いつも着るものじゃなくて、すごく特別なときにひっぱり出して着るみたいなことをやりたかったんだなって、初日に観たときに思ったんです。
スズキ 今回、生まれてすぐと死んだあとは布にくるまれているっていう台詞もあったけど、それはすごくそうだなと思っていて。いろんなお祭りを見ても、衣装がないっていうのはほとんどないんだよね。服を着るってすごく面白い行為だなと思うし、服を着せるっていうのも不思議なことで。藤田君がグリム童話の話をしてくれたけど、仕立て屋って昔話によく出てくるんだよね。
藤田 僕が持ってるグリム童話の全集にも、仕立て屋の話が4、5本入ってるんですよ。タイトルに「仕立て屋」って入ってる話も多いんだけど、そこで描かれる仕立て屋はちょっと卑しい存在で。天国から落とされたり、決闘するときに誤摩化した戦い方をしたり、ちょっと浮世離れした変な存在なんです。
スズキ 「裸の王様」、あれも仕立て屋が王様を騙すっていう、仕立て屋的にはちょっと悲しい話で。でも、仕立て屋さんがちょっと道化的なポジションに立ってることが多いって言うのは面白いよね。
存在なんです。

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藤田 今回、劇中でもゲストの方に「何で叩くんですか?」とか「何で服なんですか?」とかってことを聞いてるじゃないですか。これは聞いたところで答えはないと思うし、僕が演出するのも不思議なことかもしれないんですけど、スズキさんは何で人に服を着せたいんですか?
スズキ 何でだろうね?
藤田 今回のゲストの中で、スズキさんが一番変な人像が強いというか……。ドラムを叩いて気持ちいいっていうのはわかるし、ピアノを弾いて気持ちいいっていうのもわかるし――ホンマさんはまた違うフェティシズムがあると思うけど――服を人に着せたいって何だろうなって。
スズキ たしかに、ちょっと危ない感じはあるよね。何だろうね。でも、目的ってこととは違うかもしれないけど、服ほど身近にあるものってないと思っていて。食べ物っていうのも体内に入れるってことではすごく大事だけど、服はずっと身体に触れてるわけだよね。そうすると、たとえば「ちょっと動きづらいな」とかってことがストレスになることもあるだろうし、癒しになることもあるだろうし、ほんの微妙なことが人に作用する。そうしたときに、最終的には僕が作る服が何かの救いになってくれればいいなと思ってるんだよね。そんなにすごいことができるとは思ってないんだけど、ちょっとしたことがゆくゆくはすごい作用になることがあって。そういうことができることに喜びは感じてるかもね。
藤田 スズキさん、僕が去年海外ツアーに出発する直前にシャツを渡してくれたじゃないですか。最初は「めっちゃ嬉しいな」と思ってただ単に着てたんだけど、すごいタイムラグがあって「これ、めちゃくちゃ着心地いいな」って気づいたんです。スズキさんの言う「救い」とかっていう言葉がわかるのは何年か先かもしれないけど、ほんとに小さい、皮膚レベルの積み重ねみたいなことを人の身体に置いていくってことですよね?
スズキ 0.1度とか、そのレベルで角度が変わったことが、ずーっと経つと開いていって大きな変化になる。そういうことはあると思うんだよね。

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藤田 スズキさんって、めちゃくちゃ電話するじゃないですか。それを盗み聞きしてると、送られてきた写真を見ながら「そのボタンはあと2センチ外」とかって話を今日もしてて。たぶん、そういうことなんでしょうね。
スズキ 今回は出演させてもらってるから不思議な感じだけど、普段役者さんに衣装を着せるときに一番重要なのは「彼女たち/彼らにとってどういう存在になれるか」っていうことで。変な話、お客さんからどう見えているかっていうことよりも、彼女たちのテンションや気持ちにどう作用するかってことのほうが重要なんです。だから、着てる本人しか気づかないであろうこともちょこちょこある。
藤田 ああ、それはムカつく(笑)。なるほど、そういうことね。それは絶対あるでしょうね。微妙な絞りで変わることもあるだろうし。
スズキ そうそう。何日か着たときに「あ、ここも縫ってあったんだ」みたいなことはあると思う。そういうことを、今回は特に自分も出たりしてるから、考え方として整理できたところはある。
あと、自分が出演するとなると、本番前に着替えるじゃない? 自分が着替えて出るってことはほとんどなかったから、「ああ、なるほどな」と思ったんですよね。今日は白いシャツを着て、恥ずかしながら鏡を見たときに、「やっぱり黒とは違うな」と。それがどう作用したかはわからないけど、そういう機会を与えてもらったことは面白かったです。体感することって中々ないからね。
藤田 でも、それはほんとに役者さんに嫉妬するな。たしかに、気づかないですよね。
スズキ 最初に作るのは色とか形とかで、大きいところを作るから、そこまではお客さんもわかると思うんですよね。そこから先は――もちろん全体の雰囲気の中で丈をちょっと上げたりすることはあるし、そういうことはわかると思うんだけど――外から観てるぶんにはわからないことも結構ある。
――マームとジプシーの作品の中で、今回ほど音が少ない舞台ってなかったですよね。4人のゲストの中でも、スズキさんの回は一番無音の時間が長くて。無音の時間が長いんだけど、それが成立してるっていうのが印象的でした。スズキさんが皆に喪服を着せていて、お客さんはそれを観ているっていう時間があって。
藤田 僕もまだあのシーンをどう形容していいのかわかんないんですけど、あれは新しかったですよね。いわゆる演劇的な“間”であるとか、ただ無音であるとかってことでもないんですよね。そこには布の時間が漂ってるから。「皆に服を着せる」っていう所作の時間があるから、なんか観れちゃって。驚いたのは、その布の時間のあとにかかるピアノが――ピアノって一音目が重要だと思うんだけど、その一音目の響きが全然違ったんです。その布の時間のあとにピアノがくるっていうことに、普通にハマりそうだなと思いましたね。
スズキ たしかに、やってる本人としても不思議な時間でしたね。でも、そういうところを観るってことは、なかなかないだろうなとも思いました。今回で言えば、会場中に藤田君が料理をしてることとか、暗室のシーンもすごいなと思ったんだけど、そういうのが面白かった。結構いろんなことが舞台上で行われているのに、そんなにごちゃごちゃ見えなかったんだよね。
藤田 一つ一つ、めちゃくちゃ手間をかけてやったわりには、流れて見えてるんじゃないかと思って(笑)。なんかね、「暗室はほんとにやってるのか」とかっていう意見を聞くと、「いや、やってるから」っていう。
スズキ でも、やってるわりにさらっと見えてるっていうのはいいことだと思う。そこがごちゃごちゃしちゃうと、全体的なことが伝わらなかったと思うから。
藤田 ありがとうございます。またどこかで出演してください。