mum&gypsy

チャレンジふくしまパフォーミングアーツプロジェクト ーふくしまの中高生によるミュージカル創作プロジェクトー

タイムライン

2016326日/福島県文化センター
201643日/いわき芸術文化交流館アリオス

撮影|石川直樹

▽ パンフレットより 藤田貴大

一回かぎりの時間。


五月に出会って、もう三月だから、時間がすすむのって、まったくはやいものだ。あれから、身長がのびたり、顔つきがかわったり。すこ しずつ、声がでるようになったり、いろんなことを話してくれるようになったり。みんなと出会って、春が終わって。またこうして、春が始まった。およそ一年、みんなに耳を澄ませて、観察して。あっという間に、経ってしまった。そう、経ってしまった。こうやって、あっという間に、時間というものは経ってしまう。日々はあたかも繰り返されているようで、じつは繰り返されていない。巻き戻すことはできない、すす んでいくのみ。10代のみんなの想像以上に目まぐるしい、一回かぎりの時間。みんなの日常の、ほんの一片をこうやって共有できたこ と。とてもいい時間だった。


きょうのこの時間も、一回かぎり。いつかこの時間のこと、みんなは思い出すのだろうか。わからないけれど。


いとおしいみんながこれからも、一回かぎりの時間を大切に過ごしていけますように。


藤田貴大

close

▽ パンフレットより 大友良英

いくつものタイムラインたちへ


小学校3年だった1968年からの10年間を僕は福島で過ごしていて、それは、どこにでもころがっているような平凡な思春期男子でもあり、ちょっぴり甘酸っぱい季節でもあり。ところが、そんなことは福島を出て何十年とたつうちに、これもまた、誰にでもあるように、すっかり霧の彼方の遠い遠い記憶になっていき・・・。そんな記憶の断片が、あの日以来、脳内をかき回されるかのように現れては消え、また現れ。


 福島の中高校生たちと向き合って来た1年間は、かつてそこにいた自分と向き合ってきた1年間でもありました。彼ら彼女らは、過去の自分でもあり、同時に、自分には見ることの出来ない未来でもあり。「タイムライン」は一日の出来事としてつくられてはいるけれど、でも、僕にとっては遠い過去からずっと先の未来につづく、決して一本ではないいくつもの長い長いタイムラインのようにも思えて来ます。自分が生きることの出来る時間よりももっともっと先のタイムラインたち。みんなと出会うことでそんなタイムラインが見えたような気がしています。みんな、ありがとうね。


大友良英

close

▽ パンフレットより 酒井幸菜

彼らの風景を眺めながら


「目線を遠くに置く。3km先を見つめるイメージで」


「自分の立ち位置を〈景色=アングル〉で覚えて」


「動き出すときには背後の気配、それと空間の音に耳を澄まして」


 〈振付け〉として、彼らの体に対して指示したこと。たぶん、結構難しいことを言っている。でも、彼らはそのことを素直にイメージして各々実践している。この作品では、気張らない彼らの体を大切にしたい。その体たちが、言葉と音と絡み合って〈ミュージカル〉になる。目の前で台詞が伝えられ、音が紡がれ、稽古場では出会えない彼らの日常の姿を写真と映像を通して垣間見てきた。いろんな朝、学校、帰り道、夜が凝縮された彼らのタイムラインを眺めながら、大人になった私はあの頃の自分の姿を想う。何にもない地面に地図を描いて、その上をとにかく歩いて、走って、出会って、別れて、眠りについて、また起きあがる。彼らにとってこの時間は、小さくても大きくてもきっと何かのきっかけになると願って。


酒井幸菜

close

▽ パンフレットより 石川直樹

すぐそばにある未知


ぼくが稽古に参加し始めてまもなく、中高生のみんなに「写ルンです」を渡し、一日のタイムラインを撮影してもらった。ルールは単純だ。ある日の一日を、起きてから寝るまで、一時間おきに撮ること。


 携帯電話やデジカメでしか写真を撮ったことがない彼女たちにとって、その場で像を確認できないフィルムカメラを扱うのは、戸惑いでしかなかっただろう。しかし、あがってきた写真は、おとなの入り込む余地のない、まぎれもない彼女たちだけの世界が写っていた。


 その写真を見て、もっと「知りたい」と思った。彼女たちの視線の先に、ぼくの知らない沃野が広がっている。そんな当たり前のことを小さな写真たちが教えてくれたのだ。


 冬の一番寒い時期、日の出前に起き、家の前や駅で彼女たちを待った。学校が終わってから、暗い夜道を一緒に歩いた。学校の教室に入らせてもらい、授業や部活を見学した。雪の中、寒空の下、立ちのぼる朝日や月明りを浴びながら、ひたすら共に歩き、話し、併走した。


 写真は時間を止めることができる。もう二度と戻ってこないなんともない日々のあの一瞬を留めておくことができる。風のような歌声に吹き上げられた写真たちが舞いおりるときに喚起されるであろう、何か。それに、ぼくは賭けている。


石川直樹

close

出演

ふくしまの中学生・高校生

スタッフ

作・演出/藤田貴大  音楽/大友良英  振付/酒井幸菜  写真・映像/石川直樹
監修/平田オリザ   記録映像/高見沢功  衣装/suzuki takayuki
音響/近藤祥昭(GOK SOUND)   照明/富山貴之  映像補佐/召田実子
アシスタント/伊野香織 成田亜佑美  制作/有馬恵子 林香菜
演出部/鈴木沙織  音響部/松原加奈  舞台監督/熊木進

©2018 mum&gypsy