「ヒダリメノヒダ」Archive③
Kan Sano×藤田貴大

2015年5月26日

「ヒダリメノヒダ」神奈川芸術劇場大スタジオ
4月11日、マチネ公演後に収録
記録|橋本倫史

藤田貴大 お疲れ様でした。どうでした?
Kan Sano いやー、素晴らしかった。昨日は客席から観てたけど、今日はピアノのあの位置から観てたから、全然印象が違って。食卓のシーンとか、表情がすごいよく見えるし、奥行きもすごくて。
藤田 あの位置、いいっすよね。
Kan すごい楽しかった。あのアングル。観てて写真を撮りたくなった。
藤田 撮っていいっすよ。iPhoneとかでも全然いいし。
Kan 本当? じゃあ撮ろうかな。絵になってる瞬間がすごいいっぱいあって。いや、楽しかったです。すごい近い場所だったから、「皆、こんなことやってたんだ」と思って。ずっと動いててすごいなと思った。
藤田 今の回を観て、ピアノってほんとすごい楽器だなと思いました。特に最期のシーンは存在感があって。マイクで拾って音量を大きくしてるっていうのもあるんだけど、生で弾かれると、「ピアノって究極的にメロディだな」と思ったんですよね。実はめちゃくちゃシャープな楽器ですよね。
Kan そうだね。音を断つしね。CDで流すのと生音は全然違うんだと思う。その、音の断ち具合っていうかね。
藤田 今回の作品の中でも使わせてもらいましたけど、Kan君の「レクイエム」って曲、あれは何歳のときに作ったんですか。
Kan あれはね、震災のあとに作ったから――4年前か。
藤田 昨日Kan君が観にきてくれたときにちょっと話をして、「最後に弾いてもらう曲は別に『レクイエム』じゃなくてもいいよ」って言ったら、「いや、『レクイエム』をやる気満々だけど」って言ってくれて、めっちゃ嬉しかった。
Kan いや、これはやりたいなと思って。あのシーンにすごいハマってると思ったし、即興でやるにしても、あれより合うものができるかどうか、ちょっとわかんなかったっていうのもあるんだけど。
藤田 『小指の思い出』のときは「神様のメロディ」って曲を使わせてもらったんだけど、アイディアとしては同じような構造になってる曲で。稽古場で一回弾いてみてもらったんだけど、「ターン、ターン、ターン、ターン」と鳴ってる音がまずベースにあって、そこにメロディが乗るんだけど、あれがいいっすよね。
Kan そうだね。あのモチーフが好きで、あれで何曲か作ってますね。
藤田 ピアノもそうだし、パイプオルガンとかもそうだけど、鍵盤ってちょっと儀式的なところがありますよね。『小指』のときも思ったけど、処刑台に向かっていくときにグランドピアノの音が鳴り始めると、リズムじゃないところで場が整頓されていく感じがあって。今回のラストでも、Kan君のピアノが鳴ると、皆が本当に正装して歩いてるふうに見えたんですよね。それが良かった。あと、僕の父親が結構ピアノを聴く人で。

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Kan へえ。クラシック?
藤田 いろいろ聴くんだけど、日曜の朝とかはキース・ジャレットを聴いていて。『ケルン・コンサート』とか、そういうのを思い出して。
Kan ああ、ソロピアノのやつ。え、藤田君もキース・ジャレット好きだったの?
藤田 好きでした。一回、舞台でかけたこともありますよ。
Kan 俺もキース・ジャレットのソロピアノのやつはすごい好きで、高校のときに『ケルン・コンサート』を買って、ボックスセットで出てる他のやつとかも全部買って。ひたすら即興でやっていて。そうなんだ、キース・ジャレット好きなんだ?
藤田 今日の回は、そういう昔の情景みたいなのを思い浮かべたところがありましたね。ピアノのあの懐かしさって何なんですかね? 正直、ドラムの音に懐かしさって感じないんだけど、ピアノの音って何で懐かしいんだろう。これはノスタルジーとかそういうことじゃなくて、もっと奥まった音を感じるんですよね。これはKan君のピアノだから感じるのかもしれないけど。最初にKan 君のCDを聴かせてくれたのはzAkさんなんですけど、zAkさんのクルマの中であの作品集が流れていて、「これ、マジでいいっすね」とか言ってたらCDをくれて。それで『小指』のときにも「やっぱりピアノはKan君がいいっすよね」って話になって、そこから小指バンドが始まった感じもある。
Kan そうだったんだ? ピアノって幼稚園とかで先生が弾いてるし、最初に慣れ親しむ楽器でもあるからね。
藤田 女子とかで習ってる人も多いですしね。そうそう、ゆりりの恋愛問題に関して言うと、ゆりりはKan君が演じるピアノの先生に恋心を抱いてるんだけど、先生には妻も子もいて「私が初めて好きになった人は妻子持ちだった」って言う――あの恋愛問題が全然回収できてないから、次の回は台詞を足そうと思ってる。あと、普通に悪い先生だなっていう(笑)

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Kan いや、悪いよね(笑)。何で藤田君がこういう役を思いついたのか、不思議なんだけど。
藤田 でも僕、先生のこと好きだったんですよね。
Kan それはピアノの先生?
藤田 ピアノの先生ではなかったけど、同級生より先生のほうが恋愛対象でしたね。
Kan え、藤田君も実際告白したことあるの?
藤田 いや、それはない(笑)。ないんだけど、無条件に――それは年上が好きってことなんですかね? ……何だこれ、何言ってるんだろう。だけど、「あの頃メインは恋愛だったな」とか、最近になって思うようになったかもしれない。これ、オッサンになってきたってことなのかな。昔からコドモを描いてきてるし、そのモチーフは相変わらず大切なんだけど、今回は何でこんなに恋愛ムードなのかっていう。まぁ、Kan君だからかな。
Kan でも、自分のことを思い出してみても、先生に対してちょっとそういう気持ちはあった気がする。
藤田 あと、ピアノってそういう雰囲気ありません?
Kan いや、俺はピアニストだからわかんないよ(笑)。ピアノに関して冷静に見れないから。そうなのかな?
藤田 ピアノってたぶん、何人ものクラスではないですよね。マンツーマンだったり、お姉ちゃんと一緒に習いに行ったりしてる子がいたけど、妄想しちゃいますよね。っていうか、好きになるんじゃないかと思うんですよね。
Kan まあでも、女の先生のほうが多いだろうから、男って時点で、っていうのはあるかもね。
藤田 でも、今日のKan君のピアノはほんと良かった。『小指』のとき、Kan君の1音目がずっと鳴ってるシーンっていうと飴屋さんが青柳に首締められてるシーンだったけど、あのときは「その1音目の存在感を示したい」って感じの音にしちゃったんですよね。ほんとに「楽隊がここにいるよ」って示すような感じにしちゃって。でも、今回はこれぐらい凝縮された空間になって、全体的に漂ってる感じがあって、それが良かったんだと思います。ピアノの一音の派手さみたいなものはわかってたつもりだけど、今日みたいな意味での音っていうのはほんとに美しいなと思いました。