mum&gypsy

2015年 ヒダリメノヒダ

山本達久×藤田貴大

2015/04/09

「ヒダリメノヒダ」神奈川芸術劇場大スタジオ
4月9日マチネ公演後に収録
記録|橋本倫史
*方言キツめの言葉を敢えてそのまま使っておりますので、予めご了承ください。

藤田貴大 一回目、どうでしたか。
山本達久 そうね。音楽でもそうやけど、あんまり練習をしないのね。練習すると、記憶をなぞるから。俺がしゃべるシーンとかも――あれは俺が何をしゃべってもいい状態になっとるやろ。そうすると、本番中に「あれも言ったし、これも言ったから、次は何を言おう?」って。
藤田 違うことをやろうとしてる?(笑)
山本 そうそう。ゲネを何回もやると、鮮度が失われていくというか。まあでも、役者デビューさせていただいてありがとうございました。
藤田 役者デビュー、しましたね。達久さんと会話するシーンの聡子、良かったですよね? 河原でドラムを叩いてる達久さんに聡子が話しかけるっていう。
山本 ほんとに誰かわからん人に話しかけられて、「この人、何?」っていう。
藤田 あのシーン、達久さんも聡子も、どっちも不審者だよね。
山本 俺のほうが不審者やけどね。河原でドラム叩いとるし。
藤田 あのシーンが良かったのは――ほんとにラストのところで、電車の音がなり終わってからも達久さんにはドラムを叩き続けてもらったじゃないですか。二人が会話するシーンとラストの音が繋がった感じがあって、すごい良かった。僕の町も海沿いで、汽車の中から釣りをしてるおじさんとかが見えるんです。今回の作品だと、聡子が結局町を去ったのか去らなかったのかはぼやかしてるんですけど、聡子が去ったとか去らなかったとかってこととはまったく別に、たぶんこの人はまだ河原でドラムを叩いてるんだろうなってことが想像できたのが良かったんですよね。
山本 ああ、そういうことね。たしかに、関係ないもんね。この劇の中でも、関係ないことが並行して起こってるもんね。俺は波佐谷の先輩(という設定)やから、微妙に関係してるけど。
藤田 そうそう。他のゲストの人は先生だったりして大人の立場っていう設定なんですけど、達久さんは先輩っていう設定にしてあるから。

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山本 でも、自分の音がずっと鳴っとるっていうのは不思議だったね。「こんなの、やったっけ?」っていう音もあったし。
藤田 ほぼ全編で達久の音を使ってますからね。稽古のときに録音させてもらった音はほぼ使ってます。開場中、僕が料理をしてる音と一緒に流してるのも達久さんの音源で。
山本 あれはソロライブで配ってた音源だけど、あれが使われてるって知らんかったからね。持ってきて売ればよかったと思ってるんだけど(笑)。ほとんどサントラみたいなノリで。
藤田 いや、これは絶対売れるよね。サントラ出しましょうよ今度。
山本 そうね。でも、藤田君は開場中に料理をしながら、マイクで料理の音をディレイをかけたりもしてたけど、俺のエレクトロニクスも料理してたわけだ。そういうダジャレが多くていいよね、マームは。
藤田 僕の劇で、ドラムだとか音響的な音ばかりかけるのって初めてなんですよね。そこらへんはどうでした? まあ、エルトン・ジョンとかは使いましたけど。
山本 ドラムは基本的にメロディがないから――でも、ドラムの音だけずっと聴いてたらメロディに聴こえてくるんだけど――その中にエルトン・ジョンがぶわーんと出てきたときの破壊力は半端ないよね。
藤田 半端ないっすね。ちなみに、エルトン・ジョンを使ったのは、『小指の思い出』のときに達久さんが「唯一ピアノで弾ける曲はエルトン・ジョンの『Goodbye Yellow Brick Road』だ」って言ってたからなんですよね。
山本 あの曲、ラース・フォン・トリアーの『奇跡の海』でもかかるんだよね。
藤田 そう、一番サイアクなシーンでかかるんですよね。
山本 一番サイアクなシーンなんだけど、ストーリーとは関係ないめちゃくちゃ良い景色が映される後ろであれがかかってるんだよね。でも、マームは音楽重視だからさ。今回のは今までにない感じっつうか、挑戦よね。結構自分で作っとるのもあるんやろ?
藤田 そうですね。達久さんに教わって、自分でもやれるようになっていきなと思ってるんですけど。ディレイを使い出したのはモロにそうだし。
山本 まあ、俺も使い始めてそんな長くないけどね。

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藤田 今回、「河原でドラムを叩いてる」とかってエピソードは達久さんのエピソードをそのまま使わせてもらってるんですけど、その頃とは叩いてる音はまったく違うわけですよね?
山本 まあ、違うよね。一人でドラムを叩くとき、ああいう普通のドラムのビートとかリズムとかを今は叩かないのね。あれは他の楽器があって意味があるようなもんやから。今叩くとしたら、一人でやって面白いものをやるけど、今回の芝居の中ではあえて普通のビートを叩いてる。実際、河原でドラムを叩いてたときはああいうふうに叩いてたから。あんまり覚えてないけどね。記憶がボヤけてっから。
藤田 あのシーン、「河原で叩いて気持ちいい感じで叩いて欲しい」ってお願いをして。
山本 まあでも、恥ずかしいよね(笑)。何であのときは河原でドラムが叩けたんだろう?
藤田 それを言葉にはできないんですけど、今回達久さんの音を選んだ理由っていうのはあるなと思っていて。今回の劇でやりたかったのは、稽古のときに達久さんが言っていた“関係のなさ”みたいなことなんです。誰が死んでも、究極的には関係ないじゃないですか。死んだときは親身になって悲しんでいても、生きていればそれは薄れていくし、関係なくなっていくじゃないですか。
山本 そうね。まあ、ずっと引きずっててもって話?
藤田 引きずっててもってこともあるし、たとえば「友達の友達の友達の友達が死んだ」とか言われても、悲しむことでもなかったりするじゃないですか。誰かが死んだときに、それを町ってレベルで見ていくと、全員が悲しんでるわけではないみたいなところがあると思うんです。誰かが死んだシーンで、今までのマームはメロディだったり旋律がある曲を選んでたんだけど、それをふとやめたいなと思ったんです。これは達久さんのソロライブを観に行ったときとか、あとはカフカ鼾の作業を聞いたときとかに思ったことなんですけど、人に触ってこないギリギリのところをずっとやってくれてるなと思ったんですよね。そういう音っていうのが、今の僕が描きたいと思ってる人と人とが究極的には関係ないってことの悲しさを引き出す装置になるんじゃないかと思って。
山本 なるほどね。まあ、うまくは言えんけど、わかるわ。カフカ鼾でやってるときも、三人とも違うことをやってるからね。でも、三人でやってるからね。
藤田 Kan君がゲストの回だと、どんなふうになるかは全然わかんないけど。メロディが入ってきたときにどうなるのか。
山本 今日初めて聴いたけど、途中のシーンでかかってる曲をカーテンコールでもかけてる?
藤田 かけてます。あれはKan君の曲ですね。
山本 ああ、曲なんだ? 即興でやってんじゃなくて?
藤田 曲なんですよ。あれは「レクイエム」って曲です。
山本 「レクイエム」。すごいね。YOSHIKIみたいじゃん。今度からYOSHIKIって呼ぼうかな。
藤田 メロディがあるものは、今回の舞台だとエルトン・ジョンの「Goodbye Yellow Brick Road」とKan君の「レクイエム」だけですね。
山本 あとはあれもかけてるじゃん。Kan Sanoじゃなくて、「C」のほうのCAN。俺、あれもダジャレでかけてるんじゃないかと思ってんだけど。
藤田 『EGE BAMYASI』に入ってる「Vitamin C」ですね。あれを使ったのは、達久さんが「手術してるときにかけてた」って話を聞いたからっていうのもある。
山本 そうそう。手術してるときにCANをかけてて。麻酔導入材が効いてるからボーッとしてて、「これがいいんですよ」とかずっとしゃべってて。「眠たかったら麻酔を増やしますんで」と言われても「いや、いいです」とか言ってずっとしゃべってたら、知らないあいだに落ちたからね。局部麻酔だから意識はあるはずなのに、いつのまにか寝てたからね。

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藤田 次はどうしましょうかね。一回目、何かありました?
山本 やっぱり、あんま変わんねえな。お客さんがいてもいなくても一緒だなと思った。ただ、さっきも言ったけど即興的にやってるから、過去の記憶が邪魔だなと思ってるんだけど。この記憶をどうにかして消していただけませんかね?――それが一回目が終わっての感想。役者の皆はすげえなと思う。
藤田 今日は僕も「お客さんがいてもいなくても変わらないな」と思ったんですよね。自分の舞台観ててそんなこと思ったことなかったんだけど、今回なら一時間半、ただ作業してるだけなんですよ。それを何となく成立させるために傍観するお客さんがいてくれるっていう状態な気がして。
山本 俺の位置から観てると、舞台美術はすごい幾何学的だよ。ドラムの位置から定点で観てると、すげえかっこいいよ。ラストのところ、聡子と波佐谷がしゃべるシーンでライトがビシャーッと当たって。
藤田 あそこ、達久さんもめっちゃ見えてますよ(笑)
山本 俺が?
藤田 そう(笑)。あのライトがちょうど達久さんに伸びてきて、めっちゃ見えてるんです。
山本 俺を狙ってるぐらいのライトがあって、波佐谷の影だけ見えて、『太陽にほえろ!』みたいになってる。
藤田 じゃあ、次もよろしくお願いします。

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