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Curtain Call インタビュー

2025/04/26

今年5月に新宿のLUMINE0で公演を行う「Curtain Call 」。ライターの橋本倫史さんを聞き手にむかえ、稽古が始まってしばらくしての稽古場にて、これまでどのようなこだわりを持って作品に向けての準備をしてきたのか、各セクションと重ねてきた作業についてを藤田が語ります。

▶︎第1回目インタビューはこちらより

――前回のインタビューで、演劇という営みそのものを描く新作『Curtain Call』は、昨秋のツアー中に着想を得た、とおっしゃっていましたよね。具体的には、そこからどんなふうに企画が立ち上がってきたんでしょう?

藤田 今回の作品は、企画書を書くところから立ち会ったんです。去年12月のYPAM(横浜国際舞台芸術ミーティング)で、この新作についてプレゼンをする時間をもらえたってこともあるんですけど、僕としては珍しく、制作と一緒に企画書を書いたんです。

 

――企画書はわりと、制作の仕事とされることが多いですよね。なぜ今回はそこから関わろうと?

藤田 そこには現実的な理由もあるんですけど、これまでは忙しさの中で、制作に任せきりになってしまっていたなと思っていて。そこに骨を入れ直したいってことは、前々から思っていたんです。あと、「演劇という営みそのものを描く」っていうだけだと、言葉にしにくそうだなと思ったんですよね。「こんな作品を上演します」って説明するときに、そこで制作として出てくる言葉は、僕が思うところとはちょっと違うかもなと思ったんです。

 

――と言うと?

藤田 制作の言葉としてはやっぱり、「コロナ禍以降、演劇という表現が大変な状況に追い込まれている」という話になってくるとは思うんだけど、僕はもうちょっと、そういうこととは少し違ったところで、僕自身が幼少期から救われてきた演劇という表現自体を描きたいと思っていたんです。だからそこは、僕が自分で書いてみようと思ったんですけど、やっぱり企画書って大変だなと改めて思いましたね。12月の頭ぐらいまでに、どうにかプレゼンできる状態まで持って行って、そのときに「キャスティングももう決めなきゃいけないよね」と。

 

――キャスティングって、いつも不思議に思うんですよね。藤田さんの作品は、先に台本が出来上がっているわけではないから、「こういう役をやるなら、この人で」と決めるわけではないですもんね。今回はどうやってキャストを選んだんですか?

藤田 青柳いづみと成田亜佑美にはこの場にいて欲しいなってことは最初に決まったんですけど、そこから先は結構悩みましたね。古くから一緒にやってきた俳優ならいいってことじゃないよな、って。なんだろう、ここ数年で、僕がどういうことに影響を受けてきたのかってことを考えた末にたどり着いたのが、今回のキャスティングだった気がします。たとえば(長谷川)七虹ちゃんだったら、七虹ちゃんだけをキャスティングしてるわけでもないんですよね。七虹ちゃんには京都で上演した『川を渡る』(2022年/京都芸術劇場 春秋座)って作品に出演してもらったんけど、僕の中では『A-S』(2018年/京都芸術劇場 春秋座)のときからずっと考え続けていることがあって、それが『川を渡る』にたどり着いて――まだそこから先の作品もあるかもしれないけど――そうやって京都で過ごしてきた時間も含めて、キャスティングしているところがあるんです。(渋谷)采郁だったら、彼女とは“ひび”で出会ったから、僕が“ひび”と過ごしてきた時間もそこに含まれてくる。でも、これってたぶん、バンドとかでもそうだと思うんですよね。「これを演奏するのがうまい」ってだけじゃなくて、その人が孕んでいる時間だとか、その人を介して出会ってきた土地とか、僕の中ではそういうところもすごく大切な部分なんですよね。だから、結構悩んだんですけど、去年のうちにキャスティングが終わって、LINEグループを作って――石井(亮介)くんはLINEをやってないんだけど――。

 

――再々演の『cocoon』(2022年)のときもそんな話になりましたけど、今もまだやってないんですね?

藤田 そう(笑)。それで、連絡をとるのが大変ではあるんだけど、とにかくプロローグを書こうってことで、プロローグを書き始めたんですね。まだ完全には出来てないんですけど、「プロローグは『IL POSTO』のときみたいに、最初は映像と字幕だけの時間にしたい」ってことは、そのLINEグループでも伝えていて。ここ数年の作品って、必ず朝から始まっていた気がするんだけど、その朝を自分の中で更新したいなと思ってるんですよね。

――ここ数年の作品では、朝という時間から始まって、やがて夜がやってきて、朝が訪れる、という物語を描くことが多かったですよね。今回、演劇そのものを描くときにも、プロローグを朝から始めようと思ったのは?

藤田 これまでのインタビューで結構話してることでもあるんだけど、朝ぐらいしか自然光を浴びないんですよね。今も稽古場に着いたところだけど、駅から稽古場まで歩いてくる時間しか、自然光を浴びてないんです。あとはもう、暗闇の中に身を投じていくしかない職業でもあるような気がして。でも、それで言ったら、会社とかもそうなのかもしれないですけどね。

 

――でも、会社だと窓があって、陽の光が入ってきますよね。劇場にも、この稽古場にも窓がなくて、照明がないと真っ暗だというのは、やっぱり特殊だと思います。

藤田 そうですね。あと、劇場で人を待っていて思うのは、「ここに集まってきた人の数だけ、それぞれの朝があって、ここに来てるんだな」と思うと、すごい不思議なんですよね。そこにはひとつだって同じ朝がなくて、そこには良いも悪いもない次元が朝だなと思うんです。よくワークショップとかでも言うんだけど、役者もスタッフも観客も、その日の朝に起きなかった人は劇場にはいないんですよね。家で鑑賞できる表現だったら、寝たり起きたりしながらも観れると思うんだけど、演劇は朝起きてないと、まず劇場に来れないっていう。そうやって劇場に足を運んでいる時点で、ちょっとぶち上がってる部分がある。だから、朝ってほんと、何だろう――。今はまだ、朝から始めるってこと以外は思いつかない部分もあるんだけど、かなり凝ったプロローグが出来上がりそうです。ここ最近のマームで映像を使うときって、風景を映すことが多かったんだけど、今回はそうじゃなくて、もっと物撮りをしようと思ったんです。別の作品で京都に行く機会があったり、前橋に行ったりする機会があったりしたから、そこで久々に小道具を買い集める時間を過ごしてました。それだけじゃなくて、福生に行ったり、湘南にも行ったりして。

 

――これまで買い集めてきたものたちだけでも、きっと相当な量がありますよね。でも、それを使うだけじゃなくて、新たに探しに行こう、と?

藤田 ひとりで探しに行く時間が結構ありましたね。出会ったものはたくさんあるんだけど、そんなに高価なものは買ってないんですよ。福生に行って出会ったのは、700円のコップとか。あと、昔、学級通信みたいなのがあったじゃないですか。その端っこに、ちょっと微妙なイラストが載ってたりしたと思うんだけど、ああいうのに使われていたであろう、ちょっとアメリカンなイラストブックを見つけたりして。ただ、福生に行ったのは、別にアメリカンなものを探しに行こうとしていたわけでもないんです。古道具屋が多い場所に行ってみようってことで、何を見つけたいかってことはあんまり決めずに行ってましたね。もちろん、新しく買ったものだけじゃなくて、倉庫から引っ張り出してきたものもたくさんあるんです。あとは、「フィレンツェに行ったとき、薬局で歯ブラシ粉を買ってたよね?」とか、「駅のキオスクみたいなところで、スノードームを売ってたよね?」とかってことを、あっちゃん(成田亜佑美)に連絡して聞いてみたり。「そういえば、やぎ(青柳いづみ)、馬の置き物買ってなかったっけ?」って連絡してみたり

 

――結構、これまでの旅を振り返る時間にも――?

藤田 そうなんですよね。だから、ただ漠然と新しいものを買いに行くだけじゃなくて、ここ数年自分たちが過ごしてきた時間を振り返っている感じになっていったのも良かったんですよね。あと、古道具屋でよく、アルファベットスタンプみたいなのが置かれていて、あれをAからZまで揃えてみたい欲求があるんだけど、今回結構まわってみたけど揃えられなくて。そこで名久井(直子)さんにも連絡して、「ああいうスタンプ、作れませんか?」って相談したりして。今年の1月、2月、3月はぽっかり予定が空いてたから、新作だけに向かう結構贅沢な時間があって、それを3月にマームの事務所で、映像の“まりす”(宮田真理子)と全部物撮りして。ちょっと、まだこのアイディアを実現できるかどうかわかんないんですけど、これまでマームで映像を使うときは、全面に映してたんだけど、今回はフレーミングしたいなと思ってるんですよね。じゃあそのフレームを何にするかってことで、僕のじいちゃんが油絵を描くときに使ってた額縁にしよう、って。それを映像の中で使うために、一回実家に帰って、じいちゃんの額縁を撮りに行くっていう、かなりアナログな作業をしてました。

 

――藤田さんは昔から、キャスティングの話をしてましたよね。俳優やテクニカルスタッフをキャスティングするのと等しく、舞台で使う椅子もキャスティングしていて、そこは同等だ、と。ただ、今の話を聞いていると、ものに対する意識がこれまでともまた違うような気がしますね。

藤田 そうですね。これはイタリアの俳優たちと制作した『IL POSTO』のときに改めて思ったんだけど、自分がこだわっている椅子を、海外には持って行けないんですよね。東京で上演したり、地方で公演したりするときにはマームの道具を持っていけるけど、それが海外となったときに、この椅子が会議室にあるような椅子になる可能性だってある。そうやって考えていくと、「小さいものって強いな」って思ったんですよね。お土産に買ったものを詰めるような感じで、海を越えることができるな、って。そういうことを考えていたときに、見事に皆が持ってる歯磨き粉があるよなって思い出したり――。

 

――「見事に皆が持ってる歯磨き粉」?

藤田 イタリアに行った人から、なぜか皆がもらう歯磨き粉があるんですよ(笑)。それを話したら、「やっぱ皆持ってるじゃん!」ってそういうことを皆と話せたのが、結構良くて。道具って、皆さんこだわるじゃないですか。こだわらないってことにこだわっている人もいるのかもしれないけど、その感覚というか――。

 

――そうやって、ものについて考えている時間があったから、名久井さんと一緒に作品のメインビジュアルをつくるときに、あのデザインにたどり着いたわけですね。

藤田 今回のメインビジュアルに関しては、そうやって物撮りをしてたってこともあったんですよね。メインビジュアルを撮影したあとにも、プロローグの物撮りに向けて、またちょっと買い足してるんですけど。それで言うと――今回の衣装は、ずいぶん悩んだんですけど、ファッションデザイナーを立てるのではなくて、スタイリストの遠藤リカさんに入ってもらうことにしたんですね。それで、リカさんと打ち合わせをしたときに、「マームの倉庫にある衣装を使ってみたら?」って言ってくれて、それが嬉しかったんですよね。

メインビジュアル デザイン:名久井直子 撮影:井上佐由紀

――倉庫にある衣装というと?

藤田 この10年ぐらいの作品で使ってきた衣装が、マームの倉庫に全部あるんですよ。それを全部、この稽古場に運んできて、遠藤リカさんがセレクトし直すっていう大変な作業をしてくれて。スズキタカユキさんとか、『CITY』のときのアンリアレイジとか、「この部分には(藤澤)ゆきさんに箔を押してもらおう」とか、「この部分はODAKHAにしよう」とかって、これまでの作品が今回のスタイリングにハイブリッドに入ってるんです。今回の新作は、僕がどんなふうに演劇を観てきたのかってことを回顧しているようなところがあって、ものを集めているなかでも、これまでの自分たちのことを振り返っているようなときに、リカさんが「それ、やってみる?」って言ってくれたんですよね。倉庫には、すごい量の衣装があるんです。trippenと出会う前の作品で使ってた白のコンバースが何十箱もあるんだけど、それも全部稽古場に持ってきて、リカさんが全部見返してくれて。だから今、稽古場にはそこからセレクトした衣装が並んでいて、それを皆が着替えまくるって演目になるんですけど。そこも結構特殊で、今回は背丈も意識してキャスティングしたんです。石井くんって、たぶんマームの中では一番平均的な体型だから。あと、これはキャスティングが決まってからわかったんだけど、女子の足のサイズがほとんど一緒だったんです。だから、「あの作品で(中村)夏子が履いてた靴も履けるね」って話になったりして、僕が北海道に帰ってる間も、キャストの皆はここに来て、ずっと着せ替え人形みたいにいろんな服を着させられまくるっていう時間を過ごしてましたね。

 

――今日は4月10日で、稽古が始まって20日ぐらい経っているところですよね。ここまではどんなふうに過ごしてきたんでしょう?

藤田 やっぱり、稽古に入ると眠れなくなるんですよね。他の取材で言っているような言葉では、あんまり橋本さんに話したくないんだけど、1分とか5分って時間をつくるのがどれだけ大変なのかってことを、演劇をつくっているとすごく思うんですよね。マームって、「ざっくり20分やってみようか」みたいなことって1回もなくて、1分、5分、10分と考えていったときに、どういう“ストーリー”が生まれるかってことよりも、どういうグルーヴが生まれるかってことをずっと考えていて。そこではもちろん、「これも書きたいけど、書くべきじゃないよね」って言葉の取捨選択もあって、今日ようやく40分ぐらいのところまで行けるかってところですね。

 

――初日は5月8日だから、もう1ヶ月後には本番が始まってるわけですね。

藤田 そうですね。でも、今回はほんとに、1回もゲームやってないんですよ。

 

――それ、かなり珍しいですね。これまでの作品だと、最初にまず皆でゲームをやってみたり、そうやって皆がゲームをやっている姿を見ながら藤田さんがテキストを練る、って時間がありましたよね。

藤田 今回はもう、朝から晩まで稽古して、夜は自分の中でイメトレして――それをひたすら繰り返してますね。前半部分は七虹ちゃんと采郁が担っていくイメージでいるから、ふたりとどんなふうに言葉の部分で関われるか、模索しているところで。観客からしたら、新しいものを作れたかどうかって関係ないことかもしれないなとも思うんだけど、今回は完全にマームの新作としてつくってるんですよね。だから、ふたりは今、結構大変だとは思うんだけど、かなり突き詰めて頑張ってるところですね。

 

――小屋入りしてからだと、「劇場にいて、観客が訪れるのを待っている」というイメージが強くなりますけど、こうして稽古場にいるところを見ていると、「とにかく準備してる人たちだな」って、いつも思うんですよね。再々演の『cocoon』のとき、結構ハードな稽古を重ねているときでも、誰かの誕生日がやってくるたびに、サプライズでお祝いする段取りをしっかり皆で考えて、お祝いしているのを現場で見ていたときに、「ただでさえ公演に向けた準備をシビアに重ねる日々を過ごしているのに、その上さらに、誕生日をお祝いする準備もこんなにするんだ?」って思ったんです。

藤田 その話、面白いな(笑)。でも、たしかに、人ってなんか、めちゃくちゃ準備しますよね。お店をやるにしても、雑誌をつくるにしても、ずっと準備してますよね。ほとんどが準備の時間で、華やかな時間はほんとに一瞬なんだなって思いますね。今やっている稽古でも、どう演じるかってことよりも、「じゃあ、その衣装は何分で着れるの?」みたいなことばっか話してるんです。七虹ちゃんとか采郁とか、僕の新作に初めて関わるふたりは、「なんか異常に稽古してるけど、演技の稽古っぽくないんだよな」と思いながら、この稽古場までの坂を登ってきてるんじゃないかって、ちょっと心配にもなるんだけど。でも、僕はもう、稽古中毒みたいなところがあるから、公演に向けてとにかく稽古し続けてます。

 

(インタビュー写真・構成 橋本倫史)

 


公演詳細はこちらより
※チケットのご予約は、受付を終了しています。当日券については、公演詳細をご覧ください。

「Curtain Call」
作・演出 藤田貴大
出演:青柳いづみ 石井亮介 渋谷采郁
成田亜佑美 長谷川七虹

日程:5月8日(木)-5月11日(日)

会場:LUMINE0
〒151-0051 東京都渋谷区千駄ケ谷5丁目24-55 NEWoMan Shinjuku 5F

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