mum&gypsy

ΛΛΛ かえりの合図、まってた食卓、
そこ、きっと—————

〔東京〕2014年6月8-22日/東京芸術劇場シアターイースト
〔北海道〕2014年628-29日/だて歴史の杜カルチャーセンター

撮影:橋本倫史

▽ チラシより(藤田貴大)

26歳のときに書いた作品を、リユースして再構築してみようとおもうのだが、これに至るまではいろいろあった。マームとジプシーのこの三年間は、自分たちの過去に発表した作品をある意味、否定していく作業でもあった。とめどなく湧きでてくる、興味と。どうしようもなく拡大されていく、規模。どんどんと速くなっていく、スピード。取り巻くぜんぶのことにアプローチしていくときに振り返ってはいけなかった。振り返らずに、旅をしてきた。しかし去年のいつだったか、すこし立ち止まってかんがえる時間があった。疲れていた。ぼくだけじゃなくて、マームとジプシーが。たぶん、疲れていた。ぽつぽつと、みんなと話す時間があった。はじめて、過去の作品のことを話した気がする。そのときの、なんか、手触りみたいなのって。帰りたい、みたいな感覚と似ていた。この三年間で、生まれた家が壊されて道になった。飼っていたネコの、モモが死んだ。親もみんな、確実に年を重ねている。ぼくも今年、29歳になって20代最後の年を迎える。もう、振り返らないとおもっていた。帰らないとおもっていた。旅をつづけなくてはいけないから。でもでも、待っていてほしいともおもうのだ。もう、なくなってしまった家に。モモに。待っていてほしいともおもうのだ。旅しながら、帰る場所を探して彷徨っている。そのことすべてを、空間として。そこに漂う、波長を。生みだしたい。生みだした先には、また。旅。旅しかないこともわかっているけれど。


2014.4.3 藤田貴大

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▽ 東京公演パンフレットより(藤田貴大)

こないだ、29歳になった。つまり20代も今年で終わる。と同時に、マームとジプシーの20代も終わる、気がする。


26歳のときに書いた、この作品と。いま、また向き合っている。あれから、ぼくは。ぼくらは旅をした。いろんな場所で、作品を通して。別れたし、そして出会った。


ぼくの記憶の風景も、褪せていくものと、さらに鮮やかに蘇るものが共存しながら変化していった。聴こえなくなった音もあった。あたらしく聴こえてくる音もあった。そういうたくさんの葛藤のなかで作品たちは生まれた。だから三年前とはまるでちがう。理想として、目指すものも。だから手触りも。なにもかもが。


でも、ふとした瞬間に。2011年に遡ることがある。あの年は、帰る、ということに戸惑っていた。たぶんそれはぼくだけじゃない。たくさんのひとたちが。


旅をつづけてきたぼくに。ぼくらに。帰る場所はあるか。どうやら進んでいくしかない時間のなかで、すこしだけ立ち止まって。振り向いているのかもしれない。どうやって、ここまできたのか。なにを大切に、守ってきたのか。


あのころの作品のなかには、いまも変わらないものたちが煌めいていた。それらを拾い集めて、きちんと現在として。今月末には、記憶の町に。作品を持って帰りたいとおもう。


2014.6.4 藤田貴大

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▽ 北海道公演パンフレットより(藤田貴大)

10歳のときに、この町で演劇に出会った。
あれからずっと。
寝る間も惜しんで演劇のことばかり、かんがえている。
18歳のときに、この町を出て。
それからもずっと。
ほんとうにずっと。
演劇のことばかりかんがえて、
そしてずっと、つくってきた。
東京で、演劇をやりながら生活することはとても大変なことで、何度も立ち止まっては、やめようとかんがえたりしたこともあったけれど。
でも自分には演劇以外にできることはない。なによりも自分は演劇を通して、たくさんのひとに出会って、たくさんのことをかんがえて。そして、自分というカタチをつくってきた。
演劇とは、自分自身だ。
10歳のころから。
そうやって生きてきた。
なんてことない、いつもどおりの帰り道。
この町で過ごした、18年間を思い出す。
立ち止まって悩んでしまうとき。
不安でどうしようもないときに。
この町で過ごした、18年間を思い出す。
懐かしんでいてはダメなこともわかっている。振り返ってはダメなことも。ぼくの演劇は止まらずに、きびしさを持って、進まなくちゃいけない。旅をつづけなくてはいけない。
あのころには、もう帰れない。
でも、この町には待ってくれているひとたちがいた。
家族や、先生。友人も。帰ると、待ってくれていた。
作品を持って、帰ってこれた。
この町を。ぼくの家を。
あのころの食卓を描いた作品を。
持って、帰ってこれた。
ぼくにとって、これ以上のよろこびはない。
すべてのひとに、感謝。
ありがとうございます。


2014.6.23  深夜 藤田貴大

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出演

石井亮介 伊東茄那 荻原 綾
尾野島慎太朗 川崎ゆり子 斎藤章子
中島広隆 成田亜佑美 波佐谷 聡
召田実子 吉田聡子

スタッフ

作・演出/藤田貴大
舞台監督/森山香緒梨
舞台監督助手/加藤 唯 丸山賢一
音響/角田里枝
照明/南 香織
照明オペレーター/伊藤侑貴
衣装/スズキタカユキ(suzuki takayuki)
映像/召田実子
演出助手/小椋史子


当日パンフレット/青柳いづみ
宣伝美術/本橋若子
制作/林 香菜 古閑詩織


主催/マームとジプシー
共催/[北海道公演]N P O 法人伊達メセナ協会
提携/[
東京公演]東京芸術劇場(公益財団東京都歴史文化財団)
助成/芸術文化振興基金 公益財団法人セゾン文化財団

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