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BOAT

〔東京〕2018年7月16日-26日/東京芸術劇場 プレイハウス

撮影:井上佐由紀

▽ パンフレットより(藤田貴大)

終わりのないはなしを、
なるべく言葉をいそがないように、
曖昧さを、おおく残しながら。


全体が滞りなく動きつづける、
まるで生命をつくるかんじで。

いま見えているものは、
じつはすべてではなくて。
むしろほとんどのものは、
見えていないのだった。

偶然、この場所に、
居合わすことができたひと。
つまり、この上演に、
立ち会うことができたひと。

しかし、この場所にきょうも、
ひとが集まったということは。

この場所に、いないひと。
この場所のことを、知ることもないひと。

この世界は動いている。
目に見えていることよりも、
どうやら、
見えていないことのほうが、
おおいということを知ったとき。

自分がつくるものは、
どこまで届くのか。
不安になったし、同時に、
諦めたくなかった。

動きつづける世界を。
おもわぬ方向へ、
転落していきそうな、
この世界を。どうしたら。

どうしたら、肯定できるか。
見えていないことのほうが、
おおいように。
ここにいないひとのほうが、
おおいことを。

こうして、知ってしまった。

幼いころ。
この場所には、
すなわち、劇場には、
すべてのことが詰まっていると、
信じて疑わなかった。

けれども、知ってしまった。
この場所に、劇場に。
無いものもあるのだ、と。

むしろ、
ここにないものたちによって。
世界は、
動かされているのかもしれない。

終わりのないはなしを、
なるべく言葉をいそがないように、
曖昧さを、おおく残しながら。

全体が滞りなく動きつづける、
まるで生命をつくるかんじで。

どこまで届くだろう。

どこまで飛べるだろう。

客席から見つめている。
舞台から見つめている。

何百。何千。
何万という、まなざしは。
もしくは、
ひとりっきりのまなざしは。
ひとりぼっちのまなざし。

どこまで届くだろう。
どこまで飛べるだろう。

肯定できるか。

生きながら、死にたくない。
それだけのこと。
生きてるあいだは、生きていたい。

現在。

記憶。

劇場。

漕ぎつづけていきたい。
名前のない世界へ向かって。

 

2018.7.8 藤田貴大

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▽ パンフレットより(主催者挨拶)

本日は『BOAT』にご来場いただき、誠にありがとうございます。
東京芸術劇場では、2009年の野田秀樹芸術監督就任以来、芸劇eyesやRooTSシリーズなど、若手作家・演出家に新しい活躍の場を提供することに取り組んでまいりました。本公演の作・演出の藤田貴大さんとは、2011年、芸劇eyes番外編『20年安泰。』にマームとジプシーがご参加いただいたことからご縁がはじまりました。この時の上演作である『帰りの合図、』を含む連作にて、藤田さんは26歳の若さで岸田國士戯曲賞を受賞。その後、シアターイーストで代表作となる『cocoon』(原作:今日マチ子)を二度にわたり上演し、リフレインと呼ばれる演出方法等、独自の世界観を確立しました。
2014年、他の作家の言葉との出会いを通じ、演出家として更なる飛躍を期待し、藤田さんに野田芸術監督作品『小指の思い出』のプレイハウス公演を依頼いたしました。続く2015年にはRooTSシリーズにて寺山修司作品『書を捨てよ町へ出よう』を、2016年にシェイクスピアの不朽の名作『ロミオとジュリエット』の演出をお願いしました。唯一無二の感性から生まれる表現方法で描かれる藤田作品は、演劇界にとどまらず、ファッション業界や音楽業界からも非常に大きな注目を浴びました。
本作は、三度の演出委嘱作品を経て、満を持しての藤田さん自身の言葉による新作公演です。これまでマームとジプシーで描いてきた『カタチノチガウ』『sheep sleep sharp』に続く完結編であり、また、『小指の思い出』『ロミオとジュリエット』に続く三度目のプレイハウスへの挑戦となります。出演には、複雑な藤田作品を支える俳優陣をはじめ、今回が舞台初挑戦となる宮沢氷魚さん、藤田作品には欠かせない存在である青柳いづみさん、初舞台である『ロミオとジュリエット』での清廉なジュリエット役が記憶に新しい豊田エリーさん、そして、その確かな演技力で名だたる演出家からの信頼が厚く、舞台や映画でもご活躍中の中嶋朋子さんといった皆様をお迎えいたします。この競演をどうぞお楽しみください。
最後に、本公演の実現のためにご協力いただきましたすべての皆様に厚く御礼申し上げて、ご挨拶とさせていただきます。

東京芸術劇場

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出演

宮沢氷魚 青柳いづみ 豊田エリー
川崎ゆり子 佐々木美奈 長谷川洋子
石井亮介 尾野島慎太朗 辻本達也
中島広隆 波佐谷 聡 船津健太 山本直寛
中嶋朋子

スタッフ

作・演出/藤田貴大
照明/富山貴之
音響/田鹿 充
映像/召田実子
衣裳/suzuki takayuki
ヘアメイク/大宝みゆき
演出助手/山崎絵里佳 森崎 花
舞台監督/森山香緒梨


宣伝美術/名久井直子
宣伝写真/井上佐由紀
スポット映像/松澤延拓
撮影協力/与那覇政之 大竹正悟
webインタビュー/川添史子
web制作/伊藤 眸


ヘアメイク部/aya watanabe
照明部/江森由紀 安江和希(ACoRD
音響部/八城浩幸(
artical-inc
映像部/小西 楓 宮田真理子
演出部/加藤 唯 熊木 進 松本ゆい 丸山賢一
衣装部/若林佐知子


企画制作/東京芸術劇場 合同会社マームとジプシー
主催/東京芸術劇場(公益財団法人東京都歴史文化財団)
東京都 アーツカウンシル東京(公益財団法人東京都歴史文化財団)

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