〔東京〕2011年11月23日- 2011年11月27日/新世界
撮影:飯田浩一
思いだそうとしても、霞んでいってしまう、幾つかのことがある、まずそれらを拾わなくてはいけないような気がしている。
14のころ、下校中だった、股から血を流している小学生の女の子を見た、彼女は泣いているようだったが、彼女の首から上を、どうしても思いだせない。
17のころ、夕暮れ時だった、オレンジ色のなか、初めてセックスをした、終始、彼女は笑っていたようだったが、彼女の顔を、どうしても思いだせない。
最近のこと、コインランドリーで洗濯していると、片目が潰れている猫、雌猫であろう、猫に出会った、産まれたてのような子猫をくわえている、子猫は生きているかどうかわからない、彼女は子猫をくわえながら、こっちを睨んでいるようだった、しかしこれもまた、最近のことなのに、霞んでぼやけるのだ。
思いだそうとしても、
霞んでいってしまう、
幾つかのことがある。
不確かな記憶を、感触を、中勘助は、どう手元に残そうとしたのだろうか、それを知りたくって、始めようと思う。どうぞ。
ライブハウスである新世界さんに声をかけられ、
1日でも成立する演劇のイベントとして選んだのが
リーディングであり、他にはないリーディングをと考えた
のが『官能教育』─官能をめぐるリーディング─でした。
だから『官能教育』が5日間6ステージの、リーディングではなくちゃんとした公演になったことに、誰よりも不思議な気持ちでいるのは私です。
しかも早々に全日程の予約枚数が終了する大反響で、演出を引き受けてくれた藤田さんの人気、山内さん&青柳さん&尾野島さんへの期待に、改めて驚いています。
マームとジプシー作品の切なさ、儚さ、郷愁、聖性に惹かれている方に、
私が藤田さんにお願いした『犬』という題材は、どう受け止めらるのか。
少しだけ心配な気持ちもありますが、放っておいてもどんどん先に進んでいく彼なので、その早歩きにこんな風変りな寄り道があってもいいだろう、という呑気な安心感は、不思議なくらい揺るぎません。
本日はご来場いただきまして、本当にありがとうございます。
青柳いづみ 尾野島慎太朗 山内健司
原作/中勘助「犬」
作・演出/藤田貴大