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「蜷の綿 -Nina's cotton-」関連企画

まなざし

〔埼玉〕2019年10月11日-10月15日/彩の国さいたま芸術劇場 NINAGAWA STUDIO(大稽古場)

撮影:井上佐由紀

▽ ダイレクトメールより(藤田貴大)

彼のまなざしについて、あらためてかんがえてみたいとおもった。たくさんの舞台をみつめつづけた、彼のまなざしについて。あの日から、叶わないものとなってしまった。みつめつづけてきた舞台を、みつめることができなくなってしまった、ということなのだとおもう。

あれからぼくもいろんな舞台をつくりつづけているけれど、いつだって、彼がいないという空白をかんじるのだった。みてほしい、というのが叶わなくなった。これをみたとき、なんて言うだろう、といつも想像しながらつくるのだけど。

彼がつくる舞台をたくさんの観客が、みつめたわけだ。そのひとつひとつのまなざしで。あのとき、なにをみつめていたのか、その感触を観客は憶えているか。演劇というそのときかぎりのものは、つまりだれかの記憶のなかにしか残らない。

ありとあらゆることをもちろん忘れていくなかで、残るものというのはどういうものだろう。彼は葛藤しつづけていたとおもう。そしてやはりみつめつづけていた。舞台を。すなわち、時代を。あのまなざしで。

ぼくもいつか、舞台をみつめることができなくなる。彼のまなざしをおもうというのは、同時にじぶんの、いつ訪れるかわからないその日をおもうことと変わらない。あれからすこし時間は経ったけれど、彼が稽古をしていた場所で。あらためて、立ち止まって、かんがえてみたいとおもった。

2019.8.18 藤田貴大

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▽ パンフレットより(藤田貴大)

これは宛先のない手紙である。なので、どこかへ届くことはない。綴ってみたけれど、封を開けるひとはもういないのだから。

暗闇のなか、だんだんと目が慣れてくると浮かびあがってくる像のことを「文字」と呼ぶとして、それを読み終えたひとたちは、空間の外にあるそれぞれの日々へと戻っていく。

もしかしたら、だれにも読まれることはなかったのかもしれない。封は開けられていないし、開けるひとももういない。けれども、きょうという日のこの時刻に、ここへ集まったひとたちとは、この「文字」を、共有する。

ぼくは、受けとった。そして忘れることはない。だから、いなくなることもない。届くことはもうないことも知っている。叶わないことも。けれども、出会ってしまったら、出会ったままなのだ。いつまでも綴りつづけるとおもう。ぼく自身がいつか、消失するまで。

2019.10.7 藤田貴大

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▽ パンフレットより(主催者挨拶)

本日は『まなざし』公演にご来場いただき誠にありがとうございます。

気鋭の演劇作家・藤田貴大さんが故・蜷川幸雄前芸術監督からの依頼を受けて執筆された書き下ろし作品『蜷の綿-Nina’s Cotton-』は、2016年2月、蜷川幸雄演出版と藤田貴大演出版の2作品が同時上演される予定でした。蜷川氏の半生が描かれた本作はしかし、蜷川氏の体調不良を受けて2作品とも公演延期とし(同年5月に蜷川氏は逝去)、戯曲は今日まで未発表となっていました。この度、彩の国さいたま芸術劇場開館25周年を記念して、本作がリーディング公演として上演されるにあたり、「Tribute to 蜷川幸雄」と題して劇場全体を使ったイベントを開催いたします。

この中で藤田さんには、3年半の時を経てもう一度「蜷川幸雄」に向き合っていただき、蜷川氏の「眼差し」をキーワードに、『蜷の綿-Nina’s Cotton-』では描かれなかったエピソードを構成してもうひとつの作品を創作していただきました。藤田さんの信頼厚い成田亜佑美さんと吉田聡子さんによる二人芝居として、蜷川氏の数多くの作品が生まれた、ここNINAGAWA STUDIOで上演いたします。

蜷川氏とは50歳離れた藤田さんの若い感性が描き出す、一人の人間としての「演出家・蜷川幸雄」。不世出の演出家の在りし日に思いを馳せるひとときとなりましたら幸いです。

最後になりましたが、本公演の実現のためにご協力いただきました皆様に心より御礼を申し上げてご挨拶とさせていただきます。

公益財団法人埼玉県芸術文化振興財団
理事長 竹内文則

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出演

成田亜佑美 吉田聡子

スタッフ

構成・演出/藤田貴大


音響/竹内和弥(彩の国さいたま芸術劇場)
映像/召田実子
衣装/若林佐知子
ヘアメイク/赤間直幸( KoaHole )
演出助手/小椋史子 猿渡 遥 山中慶子


映像操作/宮田真理子
照明操作/的場裕美 油井原成美


劇場舞台技術/彩の国さいたま芸術劇場技術スタッフ
衣装協力/trippen


協力/ニナガワカンパニー
パシフィックアートセンター
福井花


制作/松野創 高木達也(彩の国さいたま芸術劇場)
林 香菜 古閑詩織(マームとジプシー)


公益財団法人埼玉県芸術文化振興財団
理事長/竹内文則
専務理事/山本好志
エグゼクティブ・プロデューサー・事業部長/渡辺 弘
劇場部長/岩品武顕
制作・営業担当グループリーダー/濟木 亨
営業/鶴貝典久 松井 哲
票券/本郷充子 鈴木優子


企画制作
公益財団法人埼玉県芸術文化振興財団
合同会社マームとジプシー


主催
公益財団法人埼玉県芸術文化振興財団


彩の国さいたま芸術劇場開館25周年記念






[参考文献]
BGMはあたなまかせ(1982年、サンケイ出版)
千のナイフ、千の目(1993年、筑摩書房)
演出術(2002年、筑摩書房)
蜷川幸雄の稽古場から(2010年、ポプラ社)
演劇ほど面白いものはない非日常の世界へ
(2012年、PHP研究所)
演劇の力(2013年、日本経済新聞出版社)
身体的物語論(2018年、徳間書店)


[写真提供(50音順・敬称略)]
愛知県芸術劇場 アクトシティ浜松 尼崎市総合文化センター
アムステルダム市立劇場[アムステルダム]
岩手県民会館 上野学園ホール(広島県立文化芸術ホール)
梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
エスプラネード・シアターズ・オン・ザ・ベイ[シンガポール]
NPO法人アートネットワーク・ジャパン MBS
LGアートセンター[ソウル]
オーバード・ホール(富山市芸術文化ホール)
沖縄コンベンションセンター KAAT神奈川芸術劇場
学校法人筑紫女学園 金沢歌劇座
川口総合文化センターリリア 北九州芸術劇場
近鉄アート館 彩の国さいたま芸術劇場
札幌市市民文化局文化部文化振興課 サンシャイン劇場
シアター・ロイヤル・ノッティンガム[ノッティンガム]
シアター・ロイヤル・プリマス[プリマス]
JMSアステールプラザ 滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール
静岡県護国神社 静岡市民文化会館
松竹株式会社 新宿区立新宿文化センター
世田谷パブリックシアター(撮影:細野晋司)
仙台銀行ホールイズミティ21(仙台市泉文化創造センター)
大本山増上寺 築地本願寺 TBS赤坂ACTシアター
ディヴィッド・H・コーク劇場[ニューヨーク] 天王洲銀河劇場
東京エレクトロンホール宮城(宮城県民会館) 東京グローブ座
東京芸術劇場 東京文化会館 東宝株式会社
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とりぎん文化会館(鳥取県民文化会館)長久手市文化の家
長崎ブリックホール 中西紀恵 なら100年会館
日生劇場 ノルウェー国立劇場[オスロー] 花園神社
パリ日本文化会館[パリ] 姫路市文化センター
兵庫県立芸術文化センター
広島市文化交流会館広島文化学園HBGホール
フェスティバルホール 藤田俊太郎
ブルックリン・アカデミー・オブ・ミュージック(BAM)
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Bunkamuraオーチャードホール Bunkamuraシアターコクーン
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細野晋司 穂の国とよはし芸術劇場PLAT
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