〔埼玉〕 2016年2月18日-28日/彩の国さいたま芸術劇場 小ホール
撮影:細野晋司
夜ってトーンで、待っている
なぜまた、あの暗闇を描こうとおもったのか。「不在」をつよくかんじた、冬だった。待っているひとたちが、この劇場にはいた。
その様子を、こう眺めていると。また描きたくなった。あの夜。記憶のなかには、引き摺られてしまう、いくつかの出来事がある。これらもそのことを描いている。
ぼくの、誰かを失った記憶を、ぼくは、作品に吹き込もうと、必死だったのだとおもう、二十代。三十代に突入したのだけれど、冷めやらない記憶の不穏さと、それと、二十代のときには見えていなかった、未来って言葉。
落ち着くどころか、混乱させる要素が、年々、増していて困り果てている。よわよわしいヒカリを探して。「不在」の誰かを、暗闇のなかで待っている。
描くことを止めない。届かないところに、届かなくていい、と諦めたくない。届かないのはわかっている、でも届きたい気持ちもあるだろう。
夜はずっとつづいていくけれど、やっぱり朝は訪れる。その朝が、いつかほんとうの朝として、訪れてほしい。そんなことを、この年齢になっても変わらずにおもっている。
本日は、マームとジプシー『夜、さよなら』『夜が明けないまま、朝』『K と真夜中のほとりで』にご来場いただきまして、誠にありがとうございます。
『蜷の綿-Nina’ s Cotton-』の公演延期に伴い、マームとジプシーを主宰する藤田貴大さんが20 歳当時率いていた“荒縄ジャガー” で2006 年に発表した『夜、さよなら』、2009 年に初演したマームとジプシーの初期作品である『夜が明けないまま、朝』、2011 年に発表した代表作『K と真夜中のほとりで』、いずれも「夜」と「不在」をモチーフに描いた3作品を再構築し上演いたします。
そもそも2013 年夏、蜷川幸雄芸術監督が東京芸術劇場シアターイーストで上演された『cocoon』(2015 年の再演出で第23 回読売演劇大賞優秀演出家賞を受賞)を観劇して感銘を受けたことから藤田さんとの親密な交流が始まりました。2 年を経て、日本の現代演劇を牽引するマームとジプシーの作品を上演できますことを心より嬉しく思います。最後になりましたが、本公演の実現のためにご協力いただいた関係者の皆様に心より御礼を申し上げ、ご挨拶とさせていただきます。
公益財団法人埼玉県芸術文化振興財団 理事長 竹内文則
石井亮介 尾野島慎太朗 川崎ゆり子 斎藤章子
中島広隆 成田亜佑美 長谷川洋子
波佐谷 聡 船津健太 吉田聡子
作・演出/藤田貴大
舞台監督/森山香緒梨
演出部/加藤 唯 丸山賢一
衣装/スズキタカユキ 高橋 愛 (suzuki takayuki)
照明/南 香織 (合同会社LICHT-ER)
音響/角田里枝
映像/召田実子
アシスタント/小椋史子
制作/林 香菜 (マームとジプシー) 古閑詩織