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塩ふる世界。

〔神奈川〕 2011年817-22日/ STスポット

撮影:飯田浩一

▽ チラシより(藤田貴大)

じりじりと、もう暑くなってきた、東京、2011年、5月、である。
夏から夏まで、どう泳ぐか考えている最中である。
もう上京して八年目、東京の夏なんていつまでも慣れないよ、なんて思ってたけど、いい加減、慣れてきちゃったよ、それほどに、あの頃から時間、経っちゃったよ。
あの頃、そうそう、東京に向かう始まりの駅、北海道、伊達市、僕、18歳、同い年のヤツらに見送られた、親父も遠くからこっち、見てたっけ。
僕は電車で東京に向かった、どんどんと遠ざかる、北海道、伊達市、青函トンネルを抜けたあたりで、僕は、あの街に、あの家に、あの食卓に、もう帰らない、と、決めた。もう帰れない、と、思えた。思えてよかったんだ。
あそこには僕に、作文教えてくれた人がいる、演劇教えてくれた人もいる。
わけのわからない喧嘩をしたヤツもいるし、知ったこっちゃないけど、最近じゃ子どもとかできたヤツもいるらしい。
いつもふとした拍子に脳裏に浮かんでくる、その人たち、に、
僕はあの日、帰らないと決めて、帰れないと思えて、よかったんだけど、
帰りの合図は鳴った、ようだ。僕はこの合図に戸惑っている。
あの日から所在地わからぬまま、居場所も定まらぬまま、彷徨ってばかりの僕は、帰ること、できるのかな、待ってる街は、家は、食卓は、あるのかな。どうかな。
今年、2011年、夏から夏まで。泳ぎながら、確かめようと思う。
帰るということ、待ってるということ、
それは、どこに?どこで?
そこは、きっと。


2011.5.22 藤田貴大

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▽ パンフレットより(藤田貴大)

頭がキリキリする、はあ、八月、も、もう中間付近、僕、相変わらず、作品、つくっている、そりゃあ、汗だくになりながら、つくりまくっている、つくって、疲れて、今日もアパート帰る、帰って、部屋で、腐りきっている、ちょっと腐って、復活して、また、頭の中で、また作品、つくる、翌朝、作品つくりに、家を出る、駆け足、で、稽古場、に、向かう、そんなループの中、に、僕はいて、つくるつくる、を、繰り返して、いる。頭、キリキリさせる元凶、は、この作品、塩ふる世界。
この作品、難解。実に、難解。最上級に、わけのわからん、崖の上の際も際で、強風に当てられて、つくっている心地する、マームとジプシー、2011年、夏、の三部作、『かえりの合図、まってた食卓、そこ、きっと、しおふる世界。』の、終着点、これにて、三部作は終わりを迎えるのである、と同時に、マームとジプシーの2011年、後期、は、ここから始まる。僕が、この作品を始点と構えて、ここから先を、展望しているのは、明らかである、宇宙戦艦ヤマトで例えて言うならば、波動砲を打つ、一歩手前みたいなもんである、いや、もう波動砲、打つかもだから、それこそ、構えて見ていてほしいくらいにして、兎にも角にも、僕は、それくらい、この作品に入れ込んで、作り込んでる、っていう、手っ取り早く言うならば、そういうことだ。そういうことだ。
そう、それで、今回、この作品を通して取り組んでいること、とは、こういうことだ。
役者さんの身体が、どう、物語や感情を、recovery(回収)していくか、そして、そのrecovery(取り戻し)したモノを、どう、recreate(改造する)し、空間全体にreturn(返還)していくか。
つまり、僕の頑固な書き物、及び、記憶、をどう、役者さんの身体は、言動と行動を用いて、変換して、僕に、或いは、空間全体に、どう、返してくれるのか。
その作業を、繰り返し、揺さぶることによって、
文字は文字化けして、舞台上に転がりながら存在する言葉たちは、
誰の所有物でもなくなるんじゃないか、
或いは、誰もが等しく共有できる、この場所・土地で、今まさに生まれた、産物・資源(resource)になるのではないか。
そして、それを、空間にいる誰もが、手にとり、口に入れて、咀嚼しだす、という、反応(reaction)をしていくのではないか。つまりつまり、空間にいる誰もが、反応する人(reactor)となるのではないか。
こういったreの連鎖を考えて、つくっている、塩ふる世界。
これ、まるで食物連鎖、そうそう、この三部作は、食べ物に纏わる、作品群だったんだよなぁ。
僕は、繰り返す、しつこく、これからも繰り返していく、繰り返し、演劇を稼働させていく、記憶も感情も繰り返し、言動も行動も繰り返していく、繰り返し繰り返し、これからも作品つくっていく、頭、キリキリさせながら、際も際で、繰り返していく。
もう、僕には、それが演劇表現、そのものに思えてしょうがないのである。


2011.8.8 藤田貴大

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出演

青柳いづみ 伊野香織 荻原 綾 尾野島慎太朗
高山玲子 緑川史絵 吉田聡子

スタッフ

作・演出/藤田貴大


舞台監督/森山香緒梨 加藤 唯
照明/吉成陽子 山岡茉友子
音響/角田里枝
宣伝美術/本橋若子
制作/林 香菜

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