mum&gypsy

dusk dark dawn

VOL.10

2026/05/05

今のゲネ、全体的にすごい良かったと思う。良かったっていうのは、僕が期待してるのは何か、って話になってくるんだけど。

たとえば20代の頃につくった夜三部作とか、10年前に描いた『ΛΛΛ かえりの合図、まってた食卓、そこ、きっと──』と比べても、今回は自分のルーツに迫るような話をしてると思ってるのね。かなりクローズドに、自分のことだけにこだわって描いて――そういうことって、これまで意外となかった気がする。やっぱり、「マームとして、今どういう作品を発表するのか?」とか、「観客はそれをどう受け取るのか?」とかってことをどこかで考えていたけど、今回はとにかく自分に向き合って、かなり個人的な話をしてるんだよね。

なんでそんな個人的な話を描いているのかっていうと、そうしないと家族とも向き合えない気がしたから、この作品が生まれたってところもあるんだけど――僕が期待してるのは、この作品が「僕」とか「マームとジプシー」とかってところから、どんどん離れていくといいなってことで。今のゲネもまだ、僕の演出の範疇に――僕がモデルにしているものの範疇に――いた感じはあるんだけど、皆の中にあるなにかがフックになって、その範疇の外側に向かっていく気配を感じたんだよね。この作品が、僕だけのものじゃなくなる可能性を初めて感じられた、というか。

ここまでクローズドに、個人的なことを作品として描いているのは、「観客に僕の個人的な話を知ってほしい」とかってことじゃないんだよね。観客からすると、僕の個人的な話なんて、関係ないといえば関係ない話だよね。でも、この作品っていうのは、観客ひとりひとりの中にあるなにかに――僕とは関係ないところに――引っ掛かる可能性がとてもある作品だなって思っていて。だから、演者だけじゃなくて、スタッフの皆も、どんどん自分のものにしていってほしい。

僕が思う演劇っていうのは、役者とかスタッフとか関係なく、ひとりひとりが自分のものにしていく作業なんだよね。これは別に、「チームワーク」みたいな話をしてるわけじゃなくて。僕の仕事っていうのは、ひとりひとりが粒立つ集合地点をデザインすることだと思っているし、ひとりひとりのパフォーマンスを上げるのが僕の仕事だと思う。だから、もしも演者やスタッフのひとりひとりが、「誰々に言われたから、こうやってる」って範疇でいると、それはまだ芸術じゃないと思うんだよ。このキューを押す、この台詞を言う、この振付をやる――それはぜんぶ等価値なことだし、そのひとつひとつの手つきが全体のデザインに繋がってくる。だから、ひとりひとりがデザインしてるって意識で、ひとつひとつをちゃんと握ってほしい。

それと――字幕に関しても、ここ数日悩みに悩んできたところがあって。英語字幕を出すわけでもなく、日本語の字幕を出す、っていう。それは「バリアフリー字幕」とも言えるのかもしれないんだけど、そういう話だけじゃなくて、字幕が出るのはいいなと思えてるんだよね。

やっぱり僕は、作品をつくることでしか、もういなくなった人と向き合えないんだよ。そのために膨大な時間をかけて、長い手紙を書くような気持ちで戯曲を書いていて。それを音で聞けるだけじゃなくて、文字で読める状態にしてるっていうのは、自分の作品として結構新しいことだと思えてきてるから、そこのクオリティももっと上げていきたいなと思ってる。

昨日の場当たり中に、「別にカーテンコールで拍手は要らない」とか言っちゃって、ちょっと反省してるところもあるんだけど――いや、僕としては、もういなくなった人と向き合うために作品を描いてるだけだから、それは拍手とかじゃないっていうのは相変わらず思ってることなんだけど――だって、誰かが亡くなったことに対して、拍手なんてないじゃん――ただ、そういう話とは別に、作品のクオリティは上がってきてると思うから、そこに拍手があってもいいんじゃないかって、今日のゲネを観てて思えたんだよね。

(写真・構成 橋本倫史)


公演詳細・ご予約はこちらより

「dusk dark dawn」

作・演出:藤田貴大
出演:髙宮梢 仲宗根葵 中村未来 成田亜佑美

日程:2026年5月2日(土)〜6日(水)

会場:LUMINE0(最寄り駅:新宿駅)
〒151-0051 東京都渋谷区千駄ケ谷5-24-55 NEWoMan Shinjuku 5F

©2018 mum&gypsy