2026/05/01
これはちょっと、奇跡みたいだなあと思うんだけど、去年まで僕のばあちゃんはふたりとも生きてた。同い年で、94歳のばあちゃんがふたりとも。
ふたりとも同じ介護施設にいた時期が少しだけあって、そこでの話をよく聞くことになるわけ。基本的にはほぼ満室の要介護の施設なんだけど、その中には当然いろいろあるんだよね。他の入居者との関係は、うまくやってる、やってないとか。部屋はどういう感じか、相部屋なのか個室なのか。看取るときに用意される部屋もあるらしい。こういうことがあったから部屋を移動するとか。いよいよ具合が悪くなったら、どの部屋に行くのかとか。そういういろんなリアリティのなかで、両親は複雑な思いを抱えながら、ふたりと向き合っているんだよね。
そのすぐそこにある現実に対して、ここ数年は、ばあちゃん自身から聞ける言葉があったかどうかでいうと、おそらく無いんだよね。ただ、目は開けていた。起きていたから、なんとなく僕は、全部聞こえてたんじゃないかって気もする。だれかとだれかがうまくやれていないとか、廊下でケンカしているとか、全部聞いてたんじゃないか――。

これも“秘密”って言葉と繋がってくるんだけど、そうやって誰にも打ち明けていない――言葉にしていない時間ってものが、人の中には膨大にあるはずなんだよ。演劇をつくるっていうのは、観客との間に“秘密”を増やす作業だなとも思うわけ。
だからもう、最近はちょっと、観客のみなさんはひとりで観にきてくれないかなあ、と思うね。友達とか恋人とかとグルになってくるんじゃなくて、ひとりで。いや、いいんだけどね、みなさんそれぞれの理由で、われわれの作品との時間に費やしてくれているんだから。でも本音を言うと、ひとりで来てほしい。ひとりで来て、ひとりで帰ってほしいんだよな。マームってそういうもんだと思う。帰り道に、だれかと感想を言い合わずに、自分の中にある“秘密”を膨らませてほしい。あなたの中に生まれた感触を、誰とも共有せずに帰ってほしい。いや、僕の作品に限らず、表現っていうのはそういうもんなのかもしれない。それを鑑賞した人に、“秘密”を膨らませる。“秘密”を促す。
言葉にして共有してしまうと、自分の中の部屋だけに入っていたものが、誰かと共有されてしまう。それって必ずしも良いこととは限らないんじゃないかって思うんだよ。

演劇でも、シーンをどんどん描いていくと、共有できたことの連続になってしまうんだよね。誰とも共有していないものを、どう表現できるのか――。それで言うと、ダンスとかの身体表現っていうのは、誰とも共有していない時間が身体として紡がれていく感じはあるよね。良い身体表現に出会ったときって、誰とも共有できないものが――言語化できないものが自分の中に膨らんでる感じがする。
その一方で、良さを言語化できるものもあるよね。その作品の良さを、誰かに語りたくなってしまうようなもの。感想を言い合いたくなるような。僕も、「この作品については、つい話したくなってしまう」ってものはあるにはあるんだけど、そればっかりになっていくのは違う気がするんだよね。

最近はもう、ちょっとでも抽象度が高い表現は見てもらえなくなってきてるかんじがするね。わからないものはわからないから面白くない、みたいな。「こんなに長い文章は読んでもらえないだろうな」って話もあって、言葉もいかに短く書くか、みたいなことになってきてるじゃん。政治も選挙も、なんでもそうだよね。大胆に編集された数秒の短いリール動画とか見て、それがすべてみたいになっていて、もう眩暈がするよ。いやさすがにもっと見ようよ、読もうよ、と思う。それを突き詰めていくと「いかに端的に感動させるか」みたいなことになってきてしまう。もっと言うと、短く端的に書いて、それが拡散さえすれば、多くの人をこっちに導けるとも言えてしまう。マジで、危うい。ディズニーとかもさ、行ってみると「技術としてはすごいな」と思うんだけど、ああいう資本主義的なものに埋め尽くされていくことに危うさを感じる。言葉にならない曖昧さ、わからなさが、今むしろ大切だと思うんだよな。そこにこそ、クロロじゃないけど、「人とは本当に面白いな」があるのに。わからないから始まらないと、わかろうとしないじゃん。そもそも。

だから、ディズニーで行列に並んでる人たちをボーっと見ていると、「この人たちがマームの作品を観にきてくれたらいいな」といつも思って、涙が出るんだよね。ディズニーは、列が一番エモいんだよ。ディズニーをとにかく大切に思っている人たちが数秒間のアトラクションに向かって列を成している。列を見つめながら、このお金があればダンスだって観れるし、マームだって観れるじゃんと思うんだよ。マームは数秒間ではないよ、って。そうやって、いろんな表現に触れられるようにすることが大事だと思うし、それが劇場の責任でもあると思う。
(写真・構成 橋本倫史)
公演詳細・ご予約はこちらより
「dusk dark dawn」
作・演出:藤田貴大
出演:髙宮梢 仲宗根葵 中村未来 成田亜佑美
日程:2026年5月2日(土)〜6日(水)
会場:LUMINE0(最寄り駅:新宿駅)
〒151-0051 東京都渋谷区千駄ケ谷5-24-55 NEWoMan Shinjuku 5F