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mum&gypsy × trippen

BEACH/BOOTS PLOT

2018/11/23

BEACH

 

PROLOGUE /ひとは、鳥になりえたのだろうか?

明け方の、ここはビーチ

空が白んできたくらいの

うすい あわい 青色が

きょうという日を、始めていく

 

CHAPTER 1/靴棚のなかのいくつかから、これを選んで。

アスファルトに

熱が帯びていくのが、わかる

はやく サイダーが飲みたい

けれども もうすこしだけ我慢しよう

 

 

CHAPTER 2/サイドカーのついたバイクが、走っていった。

パラソルのした

色眼鏡の向こう ほんとうじゃない色

眠たいのはどうしてだろう

単調な波のリズムが、ここまで届いて

 

CHAPTER 3/現実をうやむやにして、持て余した時間を埋めるため。

こうして 波を見つめていると

日々のいろんなことが

どうでもよくなったりするのだろうか

日没のまえの、このかんじ

 

CHAPTER 4/桟橋のうえを、ふらふらと歩いていく。

ビーチサンダルのことを

フリップ・フロップス というらしい

かかとのところが、パタパタする様子

音を あらわしている

 

 

CHAPTER 5/さざなみが、それらを静かに消していく。

外灯に照らされた

真夜中の、駐車場

一台だけ クルマが、停まっている

あのなかに、だれかいるのだろうか

 

CHAPTER 6/ずっと向こうで、夏の花が音もなく揺れている。

蝉の背中が割れるのも

なので、透明な羽根も

からだが色づいていくのも

わたしは見たことがない 記憶にない

 

EPILOGUE /白く泡立った波打ち際を、裸足のまま。

森から、どうしてか流れ着いた

流木のいくつか

何年も、何十年もかけて

ここ このビーチに

 

 


 

BOOTS

 

PROLOGUE /これだっていつかは、ケモノだった。

そしてここは、森のなか

どうしてか わたしは

ここで だれかを

待っているのだった

 

 

CHAPTER 1/わたしのあとから、ついてくるような影。

季節は、おそらく冬だった

気温や 体温を

憶えているわけではない

けれども、窓から射しこむひかりのかんじが

 

CHAPTER 2/みぎからひだりへ、まるで連続していく。

そこには やっぱり速度が

速度が、伴っていたのだとおもう

いつだって、わたしは

だれよりも すこしうしろを

 

 

CHAPTER 3/息を殺して歩くのは、霧深い森。

この部屋では

暖をとることができるのだけれど

凍えた ひとびとが

かならずしも ここを、目指すわけではない

 

CHAPTER 4/足音はない。できれば、足跡も残さぬよう。

鍵は いつからだろう

ずっと、かけたままにしてある

箱のなかには、なにが

はいっていたのだっけ

 

 

CHAPTER 5/カーテンの向こうでうごめくのは、ひとか。

靴ひもを結んでいる時間は

いつだって、視線は 手もとにあるけれど

ほんとうは、ちがう場所のことを

もしくは すこし先の未来のことを

 

CHAPTER 6/それは速いのか、遅いのか。いよいよ、残像だけが。

こまかな部品が、組み合わさって

できた このブーツならば

では、じゃあ この世界は

どういう風に、組み替えることが

 

 

EPILOGUE /無秩序な森のなかで、白い息だけが落下する。

かじかんだ この手を

どこへ 添えようか

たしかなのは わたしは現在

ブーツを履いている、ということ

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