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窓より外には移動式遊園地

池田慎二(ヘアメイク)× 藤田貴大 対談

2021/04/08

「窓より外には移動式遊園地」
池田慎二(ヘアメイク)×藤田貴大
聞き手:橋本倫史 撮影:井上佐由紀

――池田さんが最初にマームとジプシーの作品に関わられたのは、『ロミオとジュリエット』(2016年)のときですか?

池田 そうなんです。あるとき、大森伃佑子さん(スタイリスト/DOUBLE MAISONディレクター。『ロミオとジュリエット』の衣装を手がけた)から突然電話がかかってきて、「ちょっと話があるんだけど」って呼ばれたのがきっかけだったんです。それで初めて藤田さんと会ったんですけど、行ってみたら人がワーッといて。

藤田 最初に来てくれたのは、稽古場の水天宮ピットでしたよね。あの作品はキャストも多くて、いきなりハードな現場で出会ったっていう(笑)

池田 人で溢れてる様子を見た時に、「きちんと頭を切り替えないと、これは大変なことになるぞ」と思ったんです。それが第一印象でしたね。

藤田 あのときはものすごく作り込んだスタイリングだったから、全員のスタイリングを終えるのに、何時間もかかってましたよね?

池田 こっちのチームは、毎日集まって、夜までずっと考えてましたね。まあでも、大まかな方向性だけは藤田さんが言ってくれるので、それを僕たちが揉んで揉んで、形にしていくんです。

――ヘアメイクをどんなふうに形にしていくか、最初のやりとりってどんな言葉から始まるんですか?

藤田 いや、すごい抽象的な話ですよね?

池田 そう、最初はほんとに抽象的ですね。

藤田 「日常ってレベルがあるとして、そこよりもうちょっとフィクション度が高いほうがいいんだけど、そこまで逸脱しないほうがいい」みたいに、微妙なニュアンスの話しか最初はしてない気がする。

池田 でも、そこが一番大切なところで。そこがなかなか決まらないで、時間が過ぎてしまうこともありますけど、安心できる存在がいると、現場がうまくいく。藤田さんはそういう存在なんだと思います。

藤田 僕としても、池田さんと出会ったことで、「ヘアメイクでこんなに変わるんだ?」っていうことの意味がようやくわかったところがあって。池田さんと出会ったのも大森さんを介してではあるんだけど、それまでの僕の現場だと、ヘアメイクは「衣装さんやスタイリストさんが連れてきた人」みたいなかんじだったんです。でも、池田さんと出会ったことで、また違う意味がついた感じがする。僕と大森さんだけでやっていたら、たぶん届かなかったところに、池田さんが最後に手を伸ばしてくれた気がします。

「ロミオとジュリエット」撮影:田中亜紀

――と言いますと?

藤田 『ロミオとジュリエット』って、僕にとっては初めて演出する古典だったんです。あれって世界で一番有名な話で、もっと、ロミジュリってことでコンポーズしようとすれば、もっと作り込んだものにだってできるわけじゃないですか。そこにどうやって微妙なブレーキをかけるのか、そのブレーキのかけかたが難しい企画だったんですよね。そこで池田さんが作ってくれたのが、確実に今っていう時間にあるんだけど、ちょっと中世っぽくもあるヘアメイクで。振り返った瞬間にいきなりロミジュリっぽい世界観になるときもあるんだけど、正面から見たら意外とナチュラルに見えたんです。

池田 『ロミオとジュリエット』のときは、キャストも多かったので、ヘアメイクのチームもセクションに分かれて、その中で少しずつアレンジしました。かなり時間をかけて、何度も何度もテストをして。こっちはもう、藤田さんと目が合えばすぐにでも「テストいいですか?」と言いたいんだけど、藤田さんは当然ヘアメイクだけじゃなくて、いろんなことをやっているわけじゃないですか。だからそんなに頻繁に確認してもらうわけにもいかないんだけど、これだけは絶対っていうときは「テストお願いします」って声をかけて、見てもらってました。

藤田 あのときは、僕と、衣装のチーフである大森さんっていう二者間でのやりとりだけじゃなくて、ヘアメイクってことで池田さんがいてくれたおかげで、良い意味で客観性が生まれたし、違う角度が生まれたなと思えた瞬間だったんですよね。

――池田さんが普段お仕事をされているファッションや広告の世界だと、撮影する瞬間に向けてヘアメイクを作り上げていくのに対して、演劇は2時間なら2時間の上演時間があって、しかもそれが公演期間中毎日続くわけですよね。演劇の現場に対しては、最初はどんな印象を持ちましたか?

池田 いや、大変ですよね(笑)。でも、創作は好きだし、そこは変わらないですね。限られた時間の中で、どこまでのものを出せるか、それに納得してもらえるか――。まったく違う世界の話ですけど、パリコレのヘアを作るときも、なかなか決まらないんですよ。パリに行っても決まらない。その不安たるや(笑)。そういう世界で育っているので、精神的に強くなってるところはありますけどね。

藤田 「ライブ」っていうことだと、演劇よりファッションショーになってくるわけですよね。池田さんとは『ロミオとジュリエット』で最初に関わって、で、そのあとが『CITY』(2019年)なんですよね。池田さんとは過酷なことばっかやってて、あのときの池田さん、朝までずっと楽屋で作業してましたよね?

 

「CITY」撮影:井上佐由紀

池田 この時代には似合わないんでしょうけど、朝までに作り込んでしまわないと間に合わないって状態だったので、朝までずっと作ってましたね。

藤田 あの、ヘッドピースをね。

池田 ヘッドピース、作るの大変だったんですよ(笑)。衣装の打ち合わせをしてたときに、その場にいた皆の中で、「何か足りないな」ってことは一致してたと思うんです。そうしたら案の定、藤田さんが「なんか足りないっすよね」と(笑)。それがまた嬉しいじゃないですか。しっかり言ってきてくれるから。そこからいろいろ探しながら、ヘッドピースを作り始めて。

藤田 池田部屋だけ、ずーっとあかりが消えないんですよ。

池田 あれ、ほんとはやっちゃいけないんでしょうね。「ブラックだよね」って言われたら、もう、ブラックですよ(笑)

――誰かに「徹夜で作業をしろ」と強いるとブラックになりますけど、創作に没頭している本人は、たとえ時間を区切って家に帰ったとしても、ずっとそのことを考えてしまうというのはあるんでしょうね。

池田 そう、ずっと続くんですよ。もちろん他のスタッフは時間を区切って帰らせますけど、僕は家に帰っても、朝までずっと作っているので。

藤田 ブラックって言葉が出たから言うと、朝まで徹夜で作業をするのは時代にそぐわないみたいに言われるけど、「表現って、夢中になったらいつのまにか夜が明けてない?」って思うんですよね。だからって徹夜しろと言ってるわけじゃ全然ないんだけど。タイムリミットがあることも表現にとって大切なことで、期限もなしにやるのは変な気がしてるんですよね。

池田 わかる。そうなんですよね。

藤田 この発言自体がブラックなのかもしれないけど、タイムリミットって人を焚きつけるし、謎の力が働くときもある。そのタイムリミットの中で作品をつくろうとしていると、別に「徹夜しよう!」とかじゃないんだけど、朝まで自然と演出のことを考えて過ごしてるんです。池田さんもそれを当たり前のようにやってくれるから、そのことを再確認させてくれるというか。

池田 「この作品のヘアメイクを」という話をもらったときに、もう絶対成功させなきゃいけないじゃないですか。そうなると、創作するにあたって、形になるまでとことんやりますよ。それはこれからも変わらないですね。もちろん人を巻き込まないようにはしますけど、自分が納得できるまでは考え続けるのが僕の仕事なんです。

――タイムリミットがある中で、どこまで創作のクオリティを上げられるか、と。

池田 そうなんです。藤田さんに聞きたかったのは、タイムリミットの中で何かを仕上げてしまわなきゃいけないっていうときに、藤田さん、仕上げてるんですか? いや、何が言いたいかっていうと、公演が始まってからも、藤田さんは次の朝のリハーサルでちょっと変えていくじゃないですか。それってベースがしっかりしてないとできないと思うんですけど、それは自分の中でどう折り合いをつけているのかな、と。

藤田 それは作品ごとにも違うんですけど、作品を仕上げる役割の自分と、「仕上げるなんてない」と思ってる自分が同居していて。もちろん初日にこぎつけるべきクオリティはあるんだけど、初日があけて観客が入ったときに気づくことがあるんだなっていうことは、30代になってわかってきたことで。20代の頃は「演劇なんだから、初日があけたあとに変えて行っていいんだ」と思ってたんだけど、たとえばプレイハウスで上演するってなったときに、初日から楽日まで、ひとつのパッケージにしたものを上演しなきゃいけないと思うようになったんです。でも、その一方で、やっぱりどこかで「フィックスなんてない」と思っている自分もいて。

池田 そうなんですよね。

藤田 「初日にこれができたんで、これが商品です」ってやりかたは、めちゃくちゃドライだなと思うんです。その作品でツアーに出るとしたら、初日から1ヶ月間は、スタッフやキャストで30人くらいが同居するわけじゃないですか。30人いたら30人の気分があるのに、「初日やった通りにやってよ」とは言えないというか。皆、やってるなかで感じていることがあって、具体的に台詞を変更しなくても、「昨日まではこう思ってたけど、あの台詞ってこうかもしれないと思ったよね」みたいに、そのときそのときに思ったことをシェアしていくと、やっぱり初日のクオリティと楽日のクオリティは違うなと思うんですよね。

池田 そう、そこをどう考えてるのか聞きたかったんです。

藤田 池田さんの仕事だと、たとえば撮影ってなると、その瞬間に仕上がったものが絶対的な結果になりますもんね。

池田 そこが舞台との違いで、撮影のとき、なかなかヘアメイク室から出せないんです。ヘアメイクが終わっても、これで本当にいいのか――。やろうと思えば、次の朝まででもやれるんだけど、僕たちの仕事はどっかで蹴りをつけなきゃいけない。藤田さんと一緒にやるようになって、そのことを意識するようになったんですよね。どっかで妥協ってワードがあるんだな、と。舞台のヘアメイクも、やっぱり日に日に変えてるんですよ。もちろんそれは作品を崩すような変え方じゃなくて、作品に収まるような微妙な変え方なんですけど、「もっとこうなんじゃないか」って考え続けていて。

藤田 「妥協点を見つける」なんていう前提は絶対に駄目だと思うけど、振り返ったときに、あれは結果的に妥協点だったのかなと思うことはありますよね。僕の仕事で言うと、「もう一言あれば、ちょっとのクオリティが違ったかも」って思うことはあって。さっきの話にあった、「なんか足んないっすよね?」みたいなことも、言わなくてもいいことかもしれないんだけど、そういうことを言っちゃうんですよね。

池田 なくてもいいのかもしれないんだけど、あったほうが絶対にいい。そこはすごく大切なところですよね。そのちょっとしたやりとりが大切な気がする。

藤田 『窓より〜』のときにも、「池田さんはどこに着地点を見つけてるんだろう?」と思ったんです。ひと演目ごとにゴールらしきものはあるんだけど、厳密に言うと毎日違うヘアメイクになっていて。

池田 だから、毎日表から舞台を観るようにしてましたね。そうすると、他愛のないことに気づいたりする。たとえば「冬の扉」のとき、舞台の後ろに窓のオブジェがあって、それが風で揺れてたんです。「あれ、いつも揺れてたっけ?」と。やぎちゃん(青柳いづみ)はもう世界に入って演技をしてるんだけど、その窓の近くに行ったときに、窓が揺れているからものすごく立体感が見えたんですよね。それはもしかするとハプニングなのかもしれないけど、創作ってそういうものなのかもしれないなとも思うんです。さっきの話と同じで、決まっているようで決まってないという。

藤田 舞台が面白いのは、映画と違って定点観測なんですよね。これは池田さんが最近庭の話をしてくれるから思いついたことでもあるんだけど、僕は枯山水が好きなんです。枯山水は毎日あの形が作られていて、その庭自体は変わらないんだけど、季節が変わったり、見ている僕らの心境も変わったりするじゃないですか。舞台もそれと同じで、変わらない舞台を観ているはずなのに、今日は昨日と違うとこを見てたりする。そこで「あれ、ここってこんなふうになってたっけ?」と思ったことを、たとえば照明の南さんと話すんですよ。そうやってこれまで見てなかったところに目をやる瞬間があるから、演劇って面白いなと思うし、フィックスさせるのは無理だと思います。

――フィックスというのは、ひとつひとつの現場でのこともありますけど、もっと広い意味でフィックスさせるタイプの人もいると思うんです。藤田さんの作品は、20代のころには「リフレイン」という言葉で形容される機会が多かったですけど、「僕はリフレインの作家だから」と、自分の中で方法論をフィックスさせることもありえると思うんですよね。池田さんのお仕事でも、「僕に依頼してもらえたら、僕のスタイルでスタイリングします」といった感じで仕事をすることもありえると思うんです。でも、おふたりとも、自分のスタイルみたいなものをフィックスさせていない印象があります。

藤田 こないだの『窓より〜』のときに改めてわかったんですけど、池田さんも僕もいろんなことが好きですよね、きっと。

池田 ああ、そうかもしれないです。

藤田 僕は結構雑食で、「これが僕の好きなスタイル」みたいなのはあんまりなくて。『窓より〜』のときも、いろんな青柳を見れて、演目ごとに違う人格があったなと思ったんですよね。それを、僕の演出ってこと以前に、池田さんのスタイリングで違う人格が舞台上にあって。それをひとりのヘアスタイリストが作るっていうのは、かなり雑食じゃないと無理だと思ったんですよね。「これが僕のカラーです」みたいに止まっちゃってる人だったら、こんな仕事できないんじゃないかって。

池田 言われてみると、めちゃくちゃ作り込んだモードなものから、すごくナチュラルなものまで、好きなんです。僕が撮影につく現場は被写体が女性であることが多いんですけど、たとえば服にしても、花柄が流行ってすごくナチュラルな感じの洋服を着ていたら、「ああ、僕が女の子だったらこれ買うな」と思うんですよね。で、ハイブランドの撮影をしていて、すごく良いコートをガッと着ていると、「ああ、女の子だったら借金してでも買うんだけどな」と。

藤田 それ、面白いですね(笑)。でも、その感覚はほんとに似てる気がします。

――ここまでのお話で印象深かったのは、「なんか足りないっすよね?」とか、ちょっとした言葉から創作が広がっているというところで。

藤田 そうやって改めて言われると、「なんか足りないっすよね?」って本当に酷い言葉ですよね。

池田 いや、面白いんですよ。ちょっとした会話がヒントになるので、そういうコミュニケーションは大切ですよね。

――だとすると、対面で人と会うことのハードルが上がった2020年の状況というのは、池田さんにとっても影響は大きかったですか?

池田 それはありますよね。Zoomでちょっと打ち合わせをするときにも、会話のワードをすごく考えるようになって。こうやって対面で話してると、流すところは流しちゃって、自分が興味あるところだけ頭に留めたりすると思うんです。でも、Zoomだと、「今のワードはどういう意味だったんだろう?」って、すごく思い返すようになりましたね。

藤田 この状況になったことで、「これまでは空間をともなってミーティングすることに慣れすぎてたな」と気づいたんです。空間がともなっていると、こうやって池田さんの話を聞いていても、「橋本さんはどういう反応をしてるのかな?」って気になりながら聞いてるから、微妙に薄まるんですよね。Zoomだと、もっと耳を澄ませなくちゃいけなくなって、聞き逃せないことは増えたなと思いますね。

池田 『窓より〜』の公演も、コロナの状況に対応したやりかたを考えてああいう形になったことはすごくあるんだろうなと思うんです。それがね、原点回帰じゃないけど、「ここはやっぱり大切なとこだな」と感じたんですよね。まず、小さな舞台が空間に点在していて、それだけで僕にとってはショックなわけです。「何これ、面白い!」とワクワクする。そこに俳優が出てきて、ひとりでガーッと演技をして、違う舞台に立つとまた違う人間になっている。小さい舞台でシンプルにそれをやっているから、基本みたいなところが見えてきて。

藤田 僕が池田さんのことを好き過ぎるってのもあるんだけど、その基本ってところに立ち返ったときに、池田さんの手つきも見せたいと思って、舞台裏じゃなくて表でヘアメイクをしてもらったんです。

池田 そう、初めて出演しました(笑)

藤田 2020年ってことで言うと、夏に上演するはずだった『cocoon』のツアーを池田さんに頼んでいたんです。『cocoon』は僕の代表作とはっきり言える作品なんだけど、すごくバランス感覚が求められる作品でもあって。ほんとにひめゆり学徒隊を描くってことになっちゃうと、あの頃の生徒たちのように三つ編みをしたり、おかっぱ頭にしたりとかってことになるのかもしれないけど、今日さんの漫画も僕の演出も、そこをずらしてるわけじゃないですか。その絶妙なところを池田さんと考えたらどういうツアーになるんだろうってわくわくしてたんだけど、そのツアーが普通になくなっちゃった感じがあったから、早く池田さんと再会しなきゃと思ってたんです。だから『窓より〜』って企画をやろうと決めたときにも、すぐに池田さんにオファーをして。そこで見せたかったのは――これはちょっとしたことでしゃらくさくもなっちゃうことだと思うんだけど――このコロナ禍で、皆との営みがなくなったわけですよね。いろんな人たちと共有するはずだった時間が取り残されて、あの冬になってしまって。だから、『窓より〜』では、俳優の髪をいじってる池田さんの手つきもお客さんに見せたかったんです。楽屋でヘアメイクをやっているときは、僕からは後ろ姿しか見えてないんだけど、ちょっと嫉妬するところもあって。

池田 嫉妬する?(笑)

藤田 僕は一生俳優と仕事をする職業だけど、最後のところに僕はいないんです。本当にこれは嫉妬しますよ(笑)。僕の言葉なんて最後のリハーサルで終わりで、そこから本番までのあいだに僕なんていないんですよね。その時間にいるのが池田さんなんだけど、本番までのあいだでヘアメイクする時間って、単にディティールを整えるだけの時間じゃなくて。そこで俳優になにか声をかけたことが、どこかに影響が出てしまう場合だってあるから、すごく慎重な時間だと思うんです。本番前の人たちになんて声かければいいのか、僕もわかんないんだけど、池田さんたちは最後まですごく繊細に手を加えていて、そういう意味でも『cocoon』に関わって欲しいなと思ったんですよね。そういうチームを池田さんが作っていて、人対人のことを考えてくれてるから安心して託せるっていうことを、『窓より〜』では観客にそのまま見てもらいたくて。俳優が勝手に舞台に出てきてるわけじゃなくて、こうやって二者間になってスタイリングしてもらう時間を経て、いろんな支度をして小さな舞台に身を投じるんだよ、って。

青柳 楽屋でメイクをしてもらって、(舞台監督の原口)佳子さんが「5分前ですよ」って呼びにきてくれて、楽屋を出て暗い廊下を渡って、ちっちゃいドアを開けて舞台に行くんです。普通だったら楽屋で「いってらっしゃい」で済むのに、池田さんは暗闇までついてきてくれる。髪型だって見えないような暗闇なのに、佳子さんと一緒に扉のところまできてくれて、「いってらっしゃい」って。

池田 なんだろう、同じ時間を共有したいのもあるし、何かがあったらいけないっていうのもあるんですけど、そういう気持ちは人より強いかもしれないですね。はっきり言って場は読めないですけど、なんとなく、普段の感じでいけたらと思うんです。普段通りって、なかなかできないですもんね。

藤田 そう、その感じがすごくて。僕が池田さんの立場だったら、変にかしこまって俳優と緊張を共有してしまったり、変な声をかけてしまったりしそうだなと思うから、普段通りって一番難しいと思うんです。でも、池田さんだけじゃなくて、池田さんのチームの皆さんはすごく繊細に仕事をしてくれて。キャストが何人もいる現場だと、いろんな緊張が池田さんの手元にあると思うんですけど、そこを捌いていくのがすごいなといつも思うから、観客の皆さんにもその様子を見せたかったんです。

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