mum&gypsy

穂村弘×マームとジプシー×名久井直子

ぬいぐるみたちがなんだか変だよと囁いている引っ越しの夜 岩手公演 終演後トークイベント

2020/12/10

穂村弘(歌人)×藤田貴大(マームとジプシー)
岩手公演 アフタートーク
2019年 12月25日/いわてアートサポートセンター風のスタジオ

藤田 えっと、クリスマスということで。

穂村 メリークリスマス〜!

 

藤田 僕は中学生の修学旅行以来かな。久しぶりに岩手に来ました。

穂村 北海道の南から岩手に。

藤田 そうですね。僕は、北海道の南にある伊達市出身です。宮城県の亘理町っていう町から、伊達藩が北海道に渡ってきたのが伊達なんですね。だから、もともと姉妹都市みたいな感じで。何度か来ていた覚えがあります。

穂村 僕は結構盛岡には来ていて。ここ10年で5回くらいかな? 今日も会場入りする前、光原社によってきました。光原社には、宮沢賢治の童話の「注文の多い料理店」の版元としての碑があるので、拝んできました。

藤田 そうなんだ、僕は行ったことないですね。

穂村 宮沢賢治って、特にファンじゃないけど、なんか拝んでしまうという得体の知れ無いひとだよね。

藤田 帰りに行きたいな。

穂村 絶対にいいと思うよ。

穂村 青柳さん、今日もすごかったですね。藤田さんはもう驚かないの?

藤田 何にですか?

穂村 青柳さんの演技に。1時間ひとりでさ。

藤田 僕は驚かないですね(笑)

穂村 青柳さんって、普通じゃないですよね。川上未映子さんという小説家が青柳さんの能力のことを、「神様との契約条件が違う」って言い方をしていてすごく腑におちたことがあった。我々とは違う条件で多分生きていて、だから代わりが居ない。僕、青柳さんとご飯食べると、別におごろうとしてないのに何故がおごりたくなってしまうんだよね(笑)普通人間同士だとそんなことないのに、契約条件の違う人だからかな。

藤田 岩手公演で初めて取り入れたテキストが結構な文量あったんですけど、一言口にしたら本当に全部覚えてました。だから、いくらでも作品の変更が利くから、すごい楽ですね僕は。

穂村 後半に向けてのあの盛り上がりはなんなんだろうね。今日の公演はどうでしたか?

藤田 演劇ってよかったなって思う回って実は少ないんですよ。もちろん毎回毎回一つの成功イメージを持ってやっているので、一定のラインには達してはいるんだけど。今日はよかったですね。今回の公演では僕が音楽を流してるんですけど、思わず音楽を切ったタイミングがありました。ここはもう青柳だけでいいんじゃないかなと思って。

穂村 劇中では、僕が書いた作品として発表しているテキストもいっぱい使われているけど、すごく瑣末なこともいっぱいいうでしょ。父が「オレンジシュースに蝿が入ってた」とか。名久井さんが富士工場の5号マシーンで自分の紙を作った時のエピソードとか。それは誰かの作品でもなんでもなくて、ただの実体験なんだけど、それでもすごい言葉が輝いてみえる。僕が必死にいい感じに作品を仕上げても、それよりただの実体験のほうが輝いて見える。僕としては本当に悔しいんだけどね。

藤田 穂村さんのお父さんへのインタビューは本当にそのまま使ってます。言葉の配置に関して考えているけど、言葉としては彼のボキャブラリーをそのまま使っています。名久井さんのインタビューもそうです。

穂村 途中のパートで、青柳さんが名久井さんのモノマネというかコピーをしていて。

藤田 結構似てますよね。

穂村 言い間違えたり噛んだりしてるのも、あれは青柳さんが噛んじゃったわけじゃないんですよ。名久井さんがインタビューの時にリアルに噛んだから、青柳さんもずっと噛み続けている。
名久井さんのシーンの「私たちには言葉がない」っていう、「誰かが書いた言葉を発していく」っていうところ、そこもなんかすごく感動しましたね。

藤田 チャプターでいうと3.5なんですけど、今日は結構よかったですね。

穂村 物語が広がって伏線が回収されていって感動するっていう演劇には慣れてるんだけど、マームとジプシーはかなり違う。もともと違うけど、この演目は特に違うじゃない? そういう時系列の話じゃなくて、とっ散らかったところで急におじいさんがバッとアップで出たりするしね(笑)。

藤田 穂村さんのお父さんですけどね、お父さん。

穂村 まあまあまあまあ、そうね。でもああいうのってさ、藤田さんの中でどうやってハンドリングをとってるの? 選択というか、作り方というか。

藤田 全体の絵はいつも見えています。どのバランスでどこの場所にどの話を具体的に配置していくかっていうことを稽古場で考えていきます。今回みたいな一人芝居ではなくて、俳優さんが何人も出る演劇の場合は、どのくらいこの俳優さんにセリフを言わせるかっていうのを、頭の中で、全体の絵として浮かべながら作っていきます。

穂村 全体の絵って何? ラストシーンということ?

藤田 いや、もっと全体。開演から終演までの絵をなんとなく。

穂村 つまり最初に1時間とか2時間の尺が脳内で動画みたいにできてるということ?

藤田 連続じゃなくて、全体絵みたいなのがあるんですよね。

穂村 全体絵……?

藤田 全体の構図みたいな感じですかね。その中で、このタイミングで穂村さんのお父さん。このタイミングで穂村さんのテキスト。みたいなものが見えてるんですね。それを具体的に配置していった時に、ちょっと重いなとか、このタイミングで名久井さんだなとか、とにかく使える「ツール」をストックしておくんですね。そのストックをどこで引っ張り出してくるかっていう、そういう作業をしてるんだと思います。

穂村 この全体の構図は、青柳さんとは共有してるの?

藤田 青柳とは全然共有してないですね。多分青柳はもっと漠然としたことを、「ああ、そういうことなんだ」って掴んでいっているんだと思います。今回は青柳だけしか出てないとはいえ、僕の中で何人も出演者がいるんですよね。「穂村さん」も、「穂村さんのお父さん」も、「お母さん」も、「名久井さん」も。僕としては、「名久井さんの5号マシーン」とかもそうかもしれない。それは多分、普段の名久井さんが話しをする時、機械も人のように紹介するじゃないですか。それがなんか面白いなと思ったので。

穂村 今、こうやってでき上がった作品を見ればそれは分かるんだけど。今回も僕が棒パンを食べてる映像が使われているんだけど、あれを撮影する時は不安なわけ。「ここに寝て棒パンを食べてください」って言われて、良い食べ方が分からないんだよね。演劇的に効果が上がる食べ方を普通は、分からないじゃん。いきなり手を使わずに棒パンを食べろって言われてもさ(笑)。

藤田 穂村さんがエッセイに書いてる有名なエピソードだから、僕としては、それがただ「観たい」と思っちゃうんですよね。

穂村 僕としてはすごく不安なんだよね。ぬいぐるみを持ってくださいって言われてもさ。写真ならなんとか我慢できるけど、動画なのに、ただ「ぬいぐるみを持ってカメラを見てください」って言われると、何が正解か分からないんだよ。藤田さんはさ、何も言ってくれないから、自分で勝手にぬいぐるみを肩に乗せたり、足を持ったり、すごい頑張ってさ、きっと無表情のほうがいいんだろうって思って頑張って撮影したんだよ。でもさ、最後にリビングの電気に頭を偶然ぶつけてしまった時に、たまたまカメラをまわしてなくて、「今の撮ってないのか!」って藤田さん言っててさ、もう一回やったほうがいいのかなあって思ったり。作っている最中は、全体像が藤田さんの脳内にしかないから、全然それが外からは分からないんだよね。

藤田 そうですね。あんまりチームで共有はしてないですね。ずっと僕の中にあるものを、僕がずっと作業してる。

穂村 演出家ってそういうものなの? もっと共有するもんじゃないの?

藤田 もっと大きい劇場になった時もあんまり共有しないんですよね。ただストックをどんどんと増やしていくんですよ。スタッフにもキャストにもストックしておいてもらうんですよ。例えば作品に直接関係ないことでも、自分は今こういうことを考えてるとか、最終的に使われなかったテキストを渡してセリフは覚えておいてもらうとか。それをみんなに蓄積しておいてもらうようにしておきます。忘れられるとキツイ。

穂村 あらゆる要素をコラージュしていくような作り方をしてると思うんだけど、今回は一人の「人生」が結構入ってきているから、テーマ的には割と重いじゃない? それを自分の手でコラージュしていく時どうしているの?

藤田 そうですね。今回の作品はものすごく緊張しました。お父さんの人生のすごく大切な時間のことだし、それを全部まるまるやってしまうとそれだけで2時間とかの素材になっちゃう。

穂村 無名の人の朝ドラみたいになっちゃうよね。

藤田 どこをカットして整理していく作業は、結構緊張しますよね。ただそのまま観せるっていうことも一つの手だとは思うんですけど、やっぱり編集を入れないとそのエピソードが引き立たなかったりすると思うので。それは、集まった素材をじっくり観察してると分かってくるというか。

穂村 今回は「引っ越し」がわりと軸だよね。あとは何か重要な軸はなんだろう?

藤田 そうですね、主な軸としては「引っ越し」とか「移動」ってことだと思います。あとは作業をする中で「ぬいぐるみ」の話に徐々になっていきましたね。ぬいぐるみっていうのは、魂が無いし、動かないし、トイストーリーみたいなことはありえないわけじゃないですか。だけどこれは女優の身体に近いのかもしれないと思いました。「女優」というか特に青柳の身体はそういう感じがするんですが、セリフとかも入れれるだけ入れれるのに、本番が終わった次の日にはもう全部忘れてるんですよ。それでまた、本番前にセリフを入れ直すみたいな姿を見てて、本当になんだこいつって思いました。それと、名久井さんも、はっきりと「自分には言葉は無い」って言っていたりするので。なんかこの作品で扱っているモチーフは、すべてぬいぐるみに比喩されてる気がしているんですよね。

穂村 なるほど。なんかさ、笑えそうで笑えないギリのものがわりと多いよね。笑っていいのか迷うような微妙な感じがいつもマームにはあるんだよ。それはなんで? 笑わせないようにしてるの?

藤田 いや、してなくて。すごいそれが苦手なんですよね。多分僕笑わせることが苦手なんですよ。個人的には、お父さんが裸でカメをごしごし洗ってピカピカにした話は相当笑えるエピソードだから、お客さんも笑ってくれるだろうなって思ってるんだけど……。

穂村 それ、全然笑えない。エピソードとしては笑えるのかもしれないけど、藤田さんの作品では、笑えないように出てくるんだよ。

藤田 穂村さんのエッセイか新聞かでこのエピソード読んだ時は、僕爆笑したんですけどね。なんで僕の演劇になると笑えなくなっちゃうんだろう。

穂村 なんか、角度がちょっとキツイからなんじゃない?

藤田 キツイのか。角度はちょっとキツイかもしれないです。そこをどうにかできれば、どうにかなるんですかね?

穂村 え、したいの?

藤田 それは、どうにかしたいと思いますよ。

穂村 爆笑演劇みたいなのにチャレンジするとかあるの?

藤田 それは、ないんじゃないですかね(笑)

穂村 青柳さんのキャラクターもあんまりそういう感じじゃないような気がする。

藤田 でも青柳は多分悩んでると思いますよ。あのカメのところ、あそこは二人で悩みましたね。こんなに面白いのになんでって。

穂村 だって『書を捨てよ町へ出よう』で芸人の又吉直樹さんが参加した時でさえさ、途中でコントをやるとか角度が急すぎて(笑)、もともと又吉さんも微妙に角度が急すぎるしね。

藤田 又吉さんの角度とマームの角度が合わさってもう全然違う角度になっちゃってた。フランスではめちゃくちゃウケましたけどね。角度が急なのにちゃんとウケたのは嬉しかった。

穂村 よかったね。

 

藤田 今回のツアーで、穂村さんがどの土地も来てくれて嬉しいです。穂村さんは、お客さんを客席に座らせて観せるっていう体験って、穂村さんの中でも特別、というか他に無い仕事だと思うんですけど。なんか変な気持ちとかにならないんですか?

穂村 僕ね、あんまり羞恥心ないんだよね。母の育児日記とか僕の意味不明な小学生の時の作文とか、作品の中になんでも出てくるもんね。そういう僕の素材をここまで、角度のある作品にする藤田さんはやっぱりすごいなあって思うなあ。棒パン食べてる時はさすがにこれ気持ち悪いんじゃないかなあって心配したけど、確かにその気持ち悪さが見事に使われている。

藤田 穂村さんの棒パン食べてる映像、もう3〜4回撮ってますもんね。

穂村 毎回棒パンを食べてるんです。だからちょっとずつ食べるの早くなるんだよね(笑)。棒パン食べる時って口の中の水分が全部完全に吸い取られちゃうんだよね。

藤田 サーターアンダーギーくらいとられますよね。

穂村 あと食べたあと飲み込むまでに実はすごい時間差があって、いつまでもモグモグしてるんだけどなんかすごいカッコ悪い、っていうかもともと全然カッコよくないんだけど、食べたあとずっと噛んでるのがちょっと恥ずかしいんだよね。

藤田 穂村さんのそういう素材は僕らが一番持ってるでしょうね。

 

 

穂村 そろそろ名久井さんの話を少ししようか。

藤田 そうですね。

穂村 この演劇で僕は映像で「本人」として登場していますが、名久井さんは僕みたいに「本人」としては登場していなくって、途中で、青柳さんが名久井さんになって登場してます。それと、前回の時に、この作品が作られていく過程で扱った素材がほとんどすべて入っている本を作りました。今日も物販で売っていると思うんですけど。

藤田 途中で舞台上でも出て着たピンク色の本ですね。

穂村 そのブックデザインを名久井さんがやってくださっていると。

藤田 この本は出版社から出ていなくて、マームとジプシーが自費出版で作ったので、ものすごくお金がかけれてるんですよね。

穂村 贅沢な造りなんですよ。クロス装だし。

藤田 この間、穂村さんが『水中翼船炎上中』っていう名前の新しい短歌の本を出版されたのですが、それも名久井さんが装丁ですよね。全部デザインが6種類あるんですっけ?

穂村 9種類。

藤田 手に取ったら分かると思うんですけど、一つ一つデザインが違うんですよ。それが全部で9種類ですよ。あれは紙の切出し方が違うということなんですかね?

穂村 そうみたいですね。

藤田 それって、本当すごいことですよね。

穂村 舞台で、僕の著作の『ラインマーカーズ』を名久井さんがデザインしてくれた時に当時名久井さんが文通をしていた少年のラブレターを切り貼りしてタイトルのロゴを作ったというエピソードが出てきたと思いますが、その少年とのラブレターも今日は展示しています。

藤田 展示コーナーでは穂村さんと名久井さんの作業机の周りにあるもの展示させてもらってます。

穂村 我々の私物で作業机を再現してあります。そこに切り刻まれてない状態のラブレターもあるので、ぜひ終演後見てみてください。あとはクリスマスツリー!

藤田 そうですそうです。ロビーにクリスマスツリーもあります。去年マームが買ったんですけど、クリスマスツリーってこの時期にしか出しちゃダメなものらしいじゃないですか。だから岩手公演だけ特別にもってきました。そのオーナメントを名久井さんが作ってくれました。切り絵です。

穂村 名久井さんって、すごい切り絵の名人なんですよ。普通紙に下絵を書いてから切ると思うんだけど、下絵は書かず名久井さんが切り出して開いたら形になってるっていう。

藤田 名久井さんは本当に神がかってますよね。青柳は近くにいるから俳優として考えれるんですけど、名久井さんのこと考えると、ちょっと次元が違う感じがしますね。

穂村 僕からしたら、それは藤田さんもそうだよ。スランプで作れないみたいな時はないの?

藤田 スランプっていきなりなるんですかね? 今の所それは無いですね。なんか変だなーみたいな時はありますけど。そんなには無いかもしれないですね。

穂村 そんな時どうするの?

藤田 変な時は、最近だったらおもちゃ屋に行きますね。それでとにかくずーっとおもちゃを見ます。

穂村 おもちゃってどんなおもちゃ?

藤田 トイザらスとか行きます。それでほんとにじっくり見ますね。何も考えずに。

穂村 買わないの?

藤田 買わないですね。けっきょく買わないんですよ。でもなんか落ち着くんですよね。

穂村 へえ、おもちゃ見ると。触るの?

藤田 触らないですね。ゆっくり見るんですよ、ずーっと。

穂村 一個ずつ? へえ、面白いね。いいこと聞いた。それどっかに書いてもいい? 名前出しても大丈夫?

藤田 大丈夫です。ほんとにゆーっくりみるんですよ、じーっと。

穂村 買わないの?

藤田 買わないです。男の子のおもちゃを見て、赤ちゃんのも見て、女の子のも見ます。

穂村 ちょっと怖いね。

藤田 なんか落ち着くんですよね。

穂村 なんか天才っぽいエピソードじゃないそれ?

藤田 午前中しかほとんど時間が空いてないから、トイザらスに行って。

穂村 一人で?

藤田 一人で行きます。

穂村 買いたくはならないの?

藤田 トイザらスで今年買い物したのはLEGOしかないかも。

穂村 ゲームとか、そういう系好きだもんね。

藤田 ボードゲーム好きです。けど、結構買って揃えちゃったから、ボードゲームも常に買いたい感じじゃなくなってきてるんですよね。

穂村 ボードゲームが好きなのはなんで?

藤田 やっぱり視点が俯瞰できたり、箱庭的だからそれを見ていると落ち着くんですよね。

穂村 みんながやってるところを見るのが好きなんだもんね?

藤田 僕やるのは全然好きじゃないんですよ。みんながやってるのを、「ああそういうルールなんだ」っていうのを外から見てるのが楽しいんですよ。

穂村 この作品の中に「ウミガメのスープ」っていう言葉が出てきたと思うんだけど、あれは確かカードゲームだったんだよね。

藤田 そうです。穂村さんとも結構やって。

穂村 強制的にやらされたんだけど。

藤田 ひとつの答えがあって、イエス・ノーの質問をしながらその真相を推理していくゲームなんですが。穂村さんはその答えにたどり着くのが早すぎて怖かったですよ。しかも電車の中でやりましたよね。

穂村 なんで電車の中であれやったんだろうね。

藤田 結構難易度が高くて、みんなでやっても結構時間がかかるゲームなんですが、穂村さんが1つか2つくらいの質問でその回答に辿り着いて。めっちゃ怖かったですあれ。

穂村 みなさんもあとで検索してみて。「ウミガメのスープ ゲーム」で。

 

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