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窓より外には移動式遊園地2

小高真理(malamute デザイナー)×藤田貴大 対談

2021/05/20

「窓より外には移動式遊園地」
小高真理(malamute デザイナー)×藤田貴大
聞き手:橋本倫史 撮影:井上佐由紀

 

――おふたりが最初に関わったのは、京都精華大学での「まえのひ」展(2016年)だったかと思います。川上未映子さんの詩を上演する『まえのひ』という作品で2014年に全国ツアーをしたときには、衣装は基本的に私物でしたよね。そこから「まえのひ」展で小高さんに衣装を依頼することになったきっかけは何だったんですか?

小高 最初のきっかけは、蘆田裕史さん(京都精華大学ポピュラーカルチャー学部教員。「まえのひ」展を企画)だよね?

藤田 ああ、蘆田さんだ。でも、ずっと前から知り合いだったような感じがする。一緒にファッションショーを観に行ったこともあったよね?

小高 そうでしたっけ?

藤田 そのときも蘆田さんと一緒だったと思うんだけど、ヒカリエのファッションショーを観にいく約束をしてて。それが2回目だった気がする。

小高 そうだ、ヒカリエだ。そのとき、「藤田君、ファッションショーの演出やらないの?」みたいな話をして。

藤田 それが2回目で、そのあと京都精華大学で「まえのひ」の展示をするとき衣装をお願いして、ご一緒したんだよね。

小高 そのとき初めてマームとジプシーを観させていただいて、すごく面白かった。

藤田 そう、そのときから「面白かった」って言うんです。なんか、『まえのひ』でツアーをした2014年のときって、笑ってはいけない感じがあったんだけど、京都精華大学で「先端で、さすわ さされるわ そらええわ」を上演したときに、客席でめっちゃ笑ってる人がいて。誰だろうと思ってみたら、小高さんなんですよ。

小高 笑っちゃいけないのかな。青柳さんの演技と藤田さんの演出が相俟って、笑ってしまって(笑)。リズム感がすごく楽しかったし、「レッドツェッペリン」って、何回も綺麗に言ってらっしゃったので。あのときのことはすごく憶えてますね。

藤田 小高さん、タイミングがわかんないんですよね(笑)。『まえのひ』展のときはめっちゃ笑ってたんだけど、こども向けの『めにみえない みみにしたい』(2018年)を観にきてくれたときは「すごい号泣した」とか言ってて。

小高 あの作品はすごく良かったです。布がバーッとなる演出が良くて、号泣しました。(笑)

――「まえのひ」展が開催されたのは2016年7月でした。そのすぐあと、2016年9月にmalamuteは『オトノミュート』というZINEを制作されています。

小高 そうなんです。青柳さんをモデルに、森栄喜さんに撮り下ろしてもらって、そこに藤田さんに文章を添えてもらいました。

藤田 この言葉を書いてる時間、好きだったんだよね。これ、僕が外国にいるときに小高さんから電話で依頼をもらった気がする。

小高 最初に電話で話したとき、「クリストファー・ノーランの『メメント』からインスピレーションを受けて、時間の切り貼りみたいなことを考えてて……」と私が話したら、一気に「ああ、もうわかった」と言ってくれて。すごく理解が早くて嬉しかったです。

藤田 小高さんってヤバいなと思ったのは、企画書が全然ファッションぽくなかったんです。企画書みたいなのが送られてきたんだけど、映画で感動した話と、「私はこう思う」ってことが結構な文字量で書かれてて。そこって普通、もっと整理してかっこつけると思うんだけど、まとまってない感じがすごいなと。でも、実際に出来上がったビジュアルを見ると、最終的にはディティールがシャープなものになってるんですよね。

小高 最初の段階では全然まとまらなくて、いつも困っています。自分でもわからないことを人に話して、言葉のコラージュじゃないけど、会話を通じてコラージュしていく感じがあった。また別のときには、藤田君にずっとDNAの話をしたこともあるんだけど、DNAの話を笑わないで聞いてくれる藤田君って優しいなと思うんですよね。そのときは『ガタカ』というSF映画のことを藤田君にバーッと話したら、「ああ、もうオッケー」みたいに、すぐにわかってくれて。

藤田 あのときは時間軸のズレみたいな話をしてたよね。今は偶然こうなってるけど、どこかで掛け違いが起きてたら全然違う人生もあったはずで――みたいなことを、全然まとまってない感じで言ってくるのがすごく好きなんですよね。こういう仕事をしてると、ほとんど「こういう言葉を書いてくれ」みたいな依頼をされることって多いんです。でも、小高さんは言葉にまとまる前の段階から話してくれるから、「こんな僕でもチームに入れてくれるの?」って嬉しくて(笑)

小高 でも、私に依頼があるときもそうですよね。今回の『窓より〜』の衣装もそうだけど、「もう、ほんとお任せ」みたいな感じで“やぎやぎ”(青柳いづみ)は頼んでくるけど、そう頼まれると会話の中で見つけていけるから好きなんです。新宿のカフェで話しながらメモを取って、その場でラフを描いたら「いいじゃん」と言ってくれたり。最終的にはそのラフとは全然別物になったけれど、そういうのが大切な時間だと思うから。

藤田 そうなんだよね。いつも思っているのは、僕が「こういうブラウスを作って欲しい」って言うんじゃなくて、青柳から伝えるのも大切だなと思っていて。僕がいきなりアトリエに出向いて、小高さんの過去の作品を検索した画像を見せながら「こういう感じがいいんです」って言っちゃうと、小高さんの仕事がもうそこで決まっちゃうと思うんですよね。それが怖いというか。もうちょっと漠然としたところから始まったほうが、プロだからきっと悩んでくれる。悩んでくれた先にあるものは全部信頼してるから、キャスティングしてるんですよね。あと、小高さんがいいなと思うのは、「糸ってこんなことになるの?」って思うんだよね。このシリーズ(2019年Spring/Summerのコレクション。malamute初となるランウェイショーを開催し、来場者には当日パンフレットのような紙が配られ、そのテキストを藤田貴大が担当)のときすごく思ったことでもあるんだけど、単に糸を縫い合わせてるってだけじゃなくて――これは別に、中島みゆきの「糸」みたいなことを言いたいわけじゃないんだけど――人って歴史や物語を線に例えるじゃないですか。このシリーズのとき、小高さんはすごく時間のことを話してたけど、出来上がったものを見ると「ああ、そういうことか」って感じるんですよね。

小高 でも、マームとジプシーも、セットとか小道具とか、テクスチャーにすごくこだわるよね? モノの選び方とか、配置とか、手触りとか、いつもすごいなと思います。テクスチャーって、わかりやすいところで言えば経年変化なんだけど、私はコレクションを作るとき、いつもテクスチャーを先にピックアップするんです。「なんかぐにゃっとしてるやつがいいな」と思ったら、ぐにゃっとしたものを集めたり、「もうちょっと使用感が欲しいな」と思ったら、ちょっと洗濯機にかけてみたり。

藤田 色とかじゃないんだ?

小高 たとえば、そこにかかってるコートの皺の感じのほうが先に気になって、色がそのあとについてくる。そういうところから探っていくから、言葉が拙い。でも、マームの舞台にも、すごくテクスチャーのこだわりを感じるんですよね。『窓より〜』のときだと、青柳さんが途中で赤い糸を垂らしてくれて、その揺れ感がすごくきれいだった。お芝居で風を感じるみたいなところがマームとジプシーにはあって、止まってない感じがする。

藤田 小高さんは自分で「言葉が拙い」と言うけど、チームに言葉を尽くしてくれるんですよね。僕が読んでるってことは、そのショーに関わる人たち全員がまだもやもやした段階にある小高さんの言葉を読んでるはずで、それってかなり良いことだと思うんです。言葉を放棄し始めると人って荒むから、そこで言葉を尽くそうとするかどうかってすごく大事で。小高さんって、稽古場にきてくれるときでも、観劇後にきてくれるときでも――。

小高 いちいち楽屋まで感想を言いに行ってるよね?(笑)

藤田 そう(笑)。僕は誰かの感想が欲しいってタイプじゃ全然ないんだけど、小高さんがいつも感想を言いにきてくれるのは嬉しいんだよね。

小高 言葉が出てこないのに、「伝えなきゃ!」と思って、言いに行ってます(笑)

――今日おふたりに話を伺うとしたら、言葉ということについては伺っておきたいなと思っていたんです。さっき話した『オトノミュート』というZINEにしても、ファッションのブランドがZINEを製作するとなったときに、そこに言葉がなくても成立すると思うんですね。でも、小高さんはそこに言葉があって欲しいと思ったんだな、と。

小高 malamuteは今までコレクションを森栄喜さんに撮って頂いていたのですが、このときは「malamuteを他のアプローチで表現してみよう」という話になって。日常に溶け込んでるのだけれど、そこにmalamuteの違和感をバンと入れたいねって話していくうちに、「初めて地球に降り立った宇宙人の女の子が、よくわからないなりに山手線を一周する」って裏テーマにたどり着いて。(笑)

藤田 裏テーマが斬新過ぎて、受け取った側は動揺するよね(笑)

小高 東京に溶け込めてない女の子の感じを入れたくて、malamuteの服と古着をミックスして、青柳さんに着てもらいました。そこには、京都精華大学で『まえのひ』を観てくすっと笑ってしまった感覚も入っています。ただ、編集だけじゃ伝わらないなと思ったから、このよくわからないコラージュ的な世界観をテキストに置き換えて欲しいと思い、藤田君にお願いしたんです。それまでプレスリリースとかは自分で書いてたから、そのテキストも自分で書けばよかったのかもしれないんだけど、それだけじゃ伝わらないものがあるし、自分で言葉にしようと隠しちゃう部分が出てくるってことにも気づいていて。藤田君にお電話して、私の話を客観的に聞いてもらって、言葉を掬い上げてもらったんです。そうすると、すごく良い言葉になって返ってきたことに感動して、初めてショーを開催したときにもテキストをお願いしたんですよね。

藤田 これは蘆田さんも言ってたけど、ファッションショーに当日パンフレットみたいな紙が置かれてるって、すごく新しかったんだと思うんです。正直、ファッションショーの場にいるようなおしゃれな人たちが、この文章を読んでどうするんだろうって不安なんだけど、言葉を持ち帰ってもらうことって新しかったんだろうな、と。

小高 そうそう、持ち帰ってもらえるのはいいなと思ったんです。ショーを体感してもらって、紙を持ち帰ってもらうと、思い出してもらえるものになるから。マームとジプシーも記憶ってことを大切にしてるけど、そうやって繋がっていくものがあるといいなと思っていつも作ってます。

――昨年12月に上演された『窓より〜』で、小高さんは「冬の扉」の衣装を手がけられています。この作品は川上未映子さんの詩を上演したもので、2018年に『みえるわ』というツアーがあったときにも、小高さんは「冬の扉」の衣装を手がけられていました。まずは遡って、2018年のときはどんなふうに作り上げたのか聞かせてください。

藤田 あのとき小高さんが作ったものはすごかったなーって、今パッと思い浮かべても思うんです。稽古場の急なスタジオに来ても、ずうっとニットを編み続けていて。「冬の扉」はすごく好きな詩で、あそこで描かれている場所って女子とか男子とか関係なく、家というよりはもっと内側にあるところだと思うんです。そこから外に出れるかどうか、ギリギリの1時間のことを描いていて。そういう内省的なところを、小高さんはかなり繊細に表現してくれるだろうなと思ったんです。あと、すごくシンプルな話として、ニットっていうものを追求し続けているであろう小高さんに、ぜひ「冬の扉」をやって欲しいなってことで取り組み始めましたね。

2018年「みえるわツアー/冬の扉」

小高 最初に「冬の扉」が入っている『水瓶』をいただいて、「この詩で自由に作って欲しい」っていうのが最初のやりとりで。詩はすごく素敵だったし、マフラーとか手袋とか冬らしいアイテムも出てくるんだけど、自由にというのはどういうことだろうと思って、演じる青柳さんに色々聞いたんです。その詩に対して、どう思ってるか。「花に例えたら何?」と聞いたら、「バラ」って言われて。「え、何色のバラ?」「ピンク?」とか。最終的には全然ピンクじゃなくて、黒いニットになったんですけど。

藤田 あれ、すごかったよね。

小高 すごいよね。今はもう作れないかもしれない(笑)。それで、藤田君がMy Bloody Valentineの話をしてたから(「冬の扉」の上演中に流れるのはMy Bloody Valentineの曲)、ちょっとグランジっぽい感じに仕上げつつ、青柳さんの体型に沿って作りました。

――ここまでの話で面白いのは、藤田さんからの依頼でも小高さんからの依頼でも、確信をついたことを伝えるってよりも、周辺にあるイメージを伝えていく感じなんですね?

藤田 今回の作品で言うと、「冬の扉」を渡して読んでもらえばわかることってあると思うんです。その先の感受性がないやつと仕事をしてるつもりはないから、詩集を渡したあとに「いや、この詩のこの部分はですね……」とか、「『冬の扉』に出てくる、『19歳の12月』って言葉がですね……」とか、いきなり俺の解説を入れてどうするって思っちゃうんですよね。作ってて楽しくなくなっちゃうのが嫌だなと思うから。その上で聞きたくなったんだけど――え、小高さんって19歳のころどうしてた?

小高 何をしていたかな。文化(女子大学)だったから、ちゃんと真面目に服を作るしかなかったと思う。

藤田 未映子さんの言葉がすごいと思うのは、「さよなら19歳の12月」って――いや、「さよなら19歳」までは言えるかもしれないけど、「さよなら19歳の12月」まで言えるって、かなりきてるなと思うんだよね。

小高 すごいよね。デジタル時計みたいに時間が書かれてる感じも、暗くなってくソワソワ感がすごいなと思う。あのソワソワ感があったから、『みえるわ』のときは引っ掛けそうな緩い編み目にしたのかもしれない。着るのは大変だったと思うけど、切れてもいいやぐらいの感じで編んだ気がします。

藤田 なるほど、ソワソワ感。日が落ちるギリギリの時刻の選び方とかも、意外と抽象表現じゃなくて。そこがすごく演劇的だなと感じるところでもあるんだけど、場所と時間の感覚がはっきりしてるんだよね。

小高 そう、はっきりしてる。捨ててるものがなくて、全部言葉で拾ってる感じがする。

藤田 だから「先端で、さすわ さされるわ そらええわ」で笑っちゃったってことだよね?

小高 そう。全部の感覚をはっきり書き残してる感じがして、びっくりしたんです。

――2016年の「まえのひ」展で出会って、2018年の『みえるわ』を経て、今回『窓より〜』で「冬の扉」を上演するにあたり、再び小高さんに衣装を依頼されています。ここまで積み重ねてきた時間は、今回の作業にどんなふうに影響しましたか?

藤田 小高さんとの作業って、はっきりと進化してるなと思えてるところがあって。今回の『窓より〜』で言うと、舞台美術にもある程度関わって欲しいなって、直感的に思ったんです。衣装として青柳の身体に配置するだけじゃなくて、もっと空間全体に小高さんの手つきがあったほうがいいなと思って、舞台美術にも手を加えてもらったんです。だから、「冬の扉」のビジュアルはこれまでにない感じにたどり着けたから、すごく気に入ってます。衣装に関しても、最初は2018年の衣装をベースにリメイクしようかって話してたんだけど、最終的にはまったく新しく作り直してくれて。あと、Trippenとmalamuteで新しいモデルの靴を作ってくれたり、僕らとしても小高さんとしても、この数年でやれることが増えた感じがあって、時間をかけて良い作業ができてるなと思ってます。

「窓より外には移動式遊園地/冬の扉」 撮影:小西楓 宮田真理子

小高 衣装をやるときって、自分のコレクションを考えるときとは違う脳を使ってる気がするんですよね。コレクションを作るときは日常で着れるものが大前提としてあって、物理的にも内面的にも行動しやすいウィメンズウェアを提案しているのですが、衣装を作ってくださいと言われたとき、一番に考えるのは「溶け込めるようにしよう」ということ。マームとジプシーを観てきて自分なりに感じたことを考えて、その人たちが今ピックアップしようとしていること――たとえば今回であれば、コロナによって演劇が上演できなくなったときの想いとか――を自分なりに噛み砕いて考えると、やっぱり『みえるわ』のときの衣装じゃ絶対駄目だなと思ったんです。大変な思いをして観にくる人もいるかもしれないし、その部分をマームさんはちゃんと表現したいはずだから、あの時のドレスじゃ駄目だ、って。

藤田 最終的に出来上がったものは、最初のイメージ画と違ったよね。

小高 室内っていう限定された空間のことを考えたいって聞いていたから、少しネグリジェっぽいものをイメージして、カシワイさんの絵も見せてもらいながらイメージを広げていきました。すごいなと思ったのは、『窓より〜』を鑑賞したら、『みえるわ』のときと全然違って。演技も違うし、演出も違うし、ほんとに室内の感じになっていて。“やぎやぎ”がすごく色っぽく見えて。そのときも感動しました。全然違うものに仕上がるのがすごいなと。しかも、空間と衣装をちゃんと見せてくれる演技と演出になっていた。「冬の扉」だと、椅子に座ったりハシゴに登ったり、動きをつけることで、衣装が綺麗に見える。“ゆきぴ”のやつ(YUKI FUJISAWAの藤澤ゆきさんが衣装を手がけた、「治療、家の名はコスモス」)も、ベッドに座るときも、衣装が綺麗に見えるように動きがついていて、「この人たち、すごいな」と思いました。なんか、ファッションデザインってそういうことだと思うんです。服だけっていうよりか、この空間自体がファッションだと思ってるから、考え方はすごく似てるのかもしれない。

「窓より外には移動式遊園地/冬の扉」 撮影:小西楓 宮田真理子

藤田 衣装ができればそれでいいってことじゃなくて、それがある場所を想像しないと衣装も作れないってことですよね。いや、勉強になるな。動きのことで言うと、『みえるわ』のとき、橋本さんにも聞かれましたよね。

――聞きました。稽古場に同席させてもらっていると、「じゃあ、そこに座って」って演出をつけたときに、スタスタ歩いてストンと椅子に座ると、「いや、なんでそうやって座るの?」って藤田さんが言ってたんです。「絶対くるんとまわり込んで座るでしょ」って。

小高 絶対がつくんだ?(笑)

藤田 もう、絶対がついちゃうんだよね。ちょっと僕、そこは病的で、世界が全部“表”から見えちゃうんだよ。役者さんは主観的だから――こっちに客席があるって意識がある人はいるかもしれないけど――表とか裏では考えないと思うんだよね。でも、ぼくは「こっちが表」って感覚が日常生活のレベルでもあって、たとえば居酒屋で飲んでるときも、店員さんがテーブルまできてくれるとき、「そう回るかなあ?」とか思っちゃうときがあって。それを日常生活で言い出すと、ただのウザいやつになっちゃうから、もちろん言わないようにしてるんだけど。

小高 そこが舞台をやるには合ってるってことだよね?

藤田 「絶対にこうまわって座ったほうが綺麗に見えるのに」って言いたい気持ちにさせてくれるのが、malamuteなんですよね。ゆきさんの衣装とかもそうで、「この衣装はソッと座るより、ボン!と座ったほうが可愛いな」とか、そういうことを考えさせてくれる。

小高 わかる。「これは雑なほうがいいな」とか、「これは綺麗に見せなくちゃいけない」とか、あるじゃないですか。その感覚がすごく良いんだと思う。

藤田 今回の「冬の扉」の衣装で言うと、すごくダサい劇団だと、山口百恵がマイクを置いたときのようにあのマフラーや手袋を床に置いちゃうかもしれないんだけど、「そこは梯子にポンと置いたほうが可愛いんじゃない?」とかね。そこはいつも厳密に考えてますね。それは僕が考えてるっていうよりも、衣装があることで考えられることだから、そういうものを作ってくれてありがとうございます。

「窓より外には移動式遊園地/冬の扉」 撮影:小西楓 宮田真理子

――今から1年前の春、小高さんはどんなふうに過ごしていましたか?

小高 去年の3月、malamuteでファッションショーをやろうと思っていたんです。でも、ひとつの場所に多くの人を集めることがやっぱり難しくて、断念しました。そこで急遽、違う形でコレクションを発表することになり、その準備が大変でした。最終的には動画を撮影して配信したけど、ファッションショーだと演劇みたいに空間に入ってもらえるけれど、動画だとなかなか入り込めない。音楽をつけたりイメージカットをいっぱい入れたり、五感を刺激できるように情報量を増やしたけれど、同時にやっぱりライブ感はすごく重要だなと思いました。その感覚を抱えたまま、ステイホーム期間になって、「不要不急の外出は控えましょう」となって。不要不急ってなんだろうと考えると、ファッションは不要不急なものになるのかもしれないけど、「いや、不要不急にさせちゃ駄目だ」という感覚が自分の中にあった。

藤田 ほんとそうだよね。

小高 ただ、外出自粛であまりアトリエに行けなくなって、自宅でデザインすることになったときに、視点が変わったところもあって。今まではもっと大きな空間で捉えていたものが、自分の部屋が空間になったというか。今、コロナ後に初めて作ったコレクションが店頭に並んでいますが、そのコレクションの制作中に考えてたことと、『窓より〜』でご依頼いただいたことがすごくリンクしてました。『窓より〜』だと、演目ごとにそれぞれの空間があって、椅子を移動させてお客さんの視点を変えていたじゃないですか。ああいうひとつひとつの部分に、「視点が丁寧だな」と感じたんです。コロナ禍って、そういうひとつひとつのことを考え直すタイミングだったのかもしれないな、と。私の服作りでも、「もっと丁寧にできた部分があったよね」と見直してアップデートしたり、ホールガーメント(無縫製)という立体的に編んだものを増やしてカットロスを減らしたり、物づくりの背景にもフォーカスするように気持ちの変化があったと思います。

――コロナ禍の日々に、モードが変わった部分がある?

小高 モードというより、視点が変わったのかも。空間が狭くなったのはあるかもしれない。

藤田 ここ数年の小高さんって、観劇して感想を伝えてくれたあとに、「私も頑張るね!」って、すごい目の強さで言って帰ったんですよね。「藤田君に観てもらえるショーを作るよ!」とか言って帰るから、この子がこんなこと言わなきゃいけない現実ってなんだろうなって思ってたんです。たとえば演劇でも、これぐらいの規模の劇場でやれるようにならないとって話はあって、僕も20代後半のころはそこにめがけて、自分たちに足りないものを自覚しながら、何を手に入れればそのグレードに達するかってことを考えてたんです。チケット料金ひとつとってみても、3千円だったものを8千円とか1万円にあげるにはどうすればいいのかってせめぎ合いってあるじゃん。

小高 うん、ある。

藤田 それはどの業界にもあるんだろうけど――今の小高さんの話を聞いてて、「ステイホーム」とかって好きな言葉じゃないし、「不要不急」みたいな言葉に対してはふざけんなと思うし、聞きたくない言葉をたくさん耳にした期間でもあるんだけど、唯一良かったと思えるのは、自分の規模を再確認できた期間だったんだろうなってところで。外に出て仕事をするってことしか選択肢がなかったときって、一回のミーティングでどれだけちゃんとしたことを言えるかも重要になってたし、タイムリミットがある中で大きいところに手を伸ばさなきゃいけない感じもあって。そういう責任感みたいなものが、最初に出会ったころよりすごく大きくなってるんだろうなって、小高さんに自分のことも重ねて苦しくなってたんです。でも、部屋の中にいなくちゃいけなくなったときに、「会場の規模が大きくなったとしても、これぐらいのことで作品のことを考えてたよな」って立ち返ることができたし、自分の興味があることってあんまり変わってないよなってことを考えれたのはよかったな、と。『窓より〜』では、部屋にいることをネガティブに扱ってちゃったかもしれないなと反省してるんだけど、部屋にいる時間があったから『窓より〜』の企画も考えることができたし、部屋にいたから得ることができた視点もあったよなと思うんですよね。

小高 絶対そうだと思います。私は2021年のSpring/Summerのコレクションを、自分の本棚から考えたんです。今までちゃんと読んでなかった本を取り出して、その中でマティスの『ブルーヌード』って図版を見たりして。それはマティスの晩年の作品で、切り絵の作品だけど、その工程がすごく丁寧だった。そうやって改めて先人に知恵をもらう時間にもなりました。

藤田 それにしても――大変でしたか?

小高 大変だったよ。不安しかなかった。

藤田 デパートも軒並み閉まって、売り場がなくなったわけだよね。

小高 そうそう。ほんとうに大変だった。どうしたらいいんだろうって、これからのことをずっと考えていたのをおぼえています。

©2018 mum&gypsy